海賊

□砂漠の旅のその前に
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「あ、二人とも。
今から砂漠に入るのにその格好で平気?」

ナミが上着を羽織ながら私とエースに聞いてくる。

ふふんっ、ご心配なくっ!

「ちゃんとあるから平気だよっ!」

「?
何処にあるの?」

「ここだよっ」

私が手の中から二着の上着を出す。

赤い方をエースに手渡すと

ナミが驚いたように言った。

「あなたって……。
なんの能力者なの…?」

「実は食べてないよ。
これはただの私の力」

正確に言えば禊ちゃんの能力で見えないようにしていた上着を見えるようにしたんだけどね。

完成ってスゴいや…。

禊ちゃんの大嘘吐きをここまで進化させちゃうんだもん。

「能力者じゃない…?!
じゃああなたはいったい……」

「私にもわかんない。
まあ化け物なんじゃないかなあ?」

あ、ナミが顔歪めた。

多分私凄い醒めた目してるんだな。

駄目だこの空気。

まあ作ったの私だけどね!

ぱたぱたと走って倉庫に飛び込んだ。












―――











「あ……」

ナミがとても悲しそうな顔で千尋が去った先を見つめていた。

…あんの馬鹿。

何が化け物だ。


「ちょっと行ってきます」

「……ごめんなさい」

「いや、ナミが気にすることじゃない」

そう言って千尋が去った方向へと走る。

この方向は倉庫だな…。

扉に近付くと小さな嗚咽が聞こえる。

…泣いてんのか。

「……千尋」

「…………」

「千尋」

ちっ。

千尋は後で吐き出すタイプだからな。

今までの全部か。

扉を開ければうずくまった千尋の姿が。

顔は見えないけど確実に泣いてる。

「…千尋「来ないでっ」……」

禍々しい紅い光が渦巻いている。

……九喇嘛かよ。

まあ気にしねえけど。

そのまま近付いて、
小さな身体を抱き締める。

「千尋……」

「…エー、ス」

「俺がいる」

例え世界の人間全てがお前を嫌っても。

俺と家族は絶対お前を守る。

「……っ。
エース、エースっ…」

「ああ、わかってる。
俺はここにいるから」

そのまま唇に口付ける。
啄むように求め合って、

千尋の口の端から混ざりあった唾液が零れる。

口を離して千尋の顔をみれば、

キスの所為と泣いていたことにより
潤んだ瞳と視線がぶつかる。

可愛いなー、ここで襲いたい。

あ、でもルフィと仲間に迷惑がかかるから駄目か……。

「エース、吸わせて…?」

「ん、いい」

『吸う』

こいつは吸血鬼。
愛した人間の血を吸わなきゃ生きられない。
って本人が言ってたけど絶対こいつ死なねえな、俺の勘がそう言ってる。

いつもは見えない黒い蝙蝠の羽が千尋の背中に現れて。

そのまま俺の首筋に牙を食い込ませる。

見た目は痛そうだけどこれ、結構気持ちいい。

じゅるじゅると血を吸う音が耳元で響き、

無意識に出そうな声を押さえ込む。

「っ……ん」

「んくっ……、
……はあっ」

首筋から口を離した千尋の口元は俺の血で真っ赤に染まっている。

俺はそれを自分の舌で拭うように舐めとる。

………こんな血の何処がいいんだか。

吸血鬼ってわかんねェな……。

「えー、す」

「なんだ?」

本や漫画ならひらがなで表示されるであろう声で俺の名前を呼ぶ。

「声、可愛かったよ」

ってそこかよっ!

あれ無意識に出るから恥ずかしいんだよな…。

あー、顔赤くなってんな、こりゃ。

そんな俺の頭を白く小さな柔らかい手で撫でる千尋に照れ笑い。

「…あと、ありがとう」

それを後回しにするか普通……?

と、外が騒がしくなって、

俺の後ろの扉が開いてルフィが……。

って、

「エース!
千尋と何やってたんだ?
楽しいことか?教えろ!!」

「あ、あの、エース……」

「盗み聞きする予定じゃなかったんだが…」

「ごめんなさい…」

……え。

意味がわからねえ。

あれこれってもしかして最初から聞いてたパターン……?

そんな俺の気持ちを代弁するように千尋が集まった麦わらの一味に聞く。

「あの、もしかして最初から……?」

「ご、ごめんなさい…」

ナミとビビが申し訳なさそうに言った。

後ろでゾロやサンジ、
ウソップも気まずそうな目で俺と千尋を見ている。

空気を読めないのは俺の弟とトナカイだけ。

「うそ、だろ…」







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