好きしょ【空色の花】

□水空小説
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 *プレゼント*


今日も来てしまった。

夕日の射す廊下。
通い慣れた部屋の入口の前に、オレは立っていた。
中に居るのはわかっている。
あとは、この薄っぺらい扉をノックして、中へ踏み込むだけだ。
けど、慣れてしまったそんな事も、今日は少しだけ違う意味をもつ。

次に出てくる時にはもう、オレは「オレ」じゃなくなっているだろうから。



――コン、コン。
遠慮がちにノックをしたオレだけど、返事は待たずにドアを開けた。
部屋には、そんなオレに動じる様子もない、背中を向けたままの水都がイスに座っていた。
「…遅かったな」
後ろ手にそっとドアを閉めるオレに、冷たい言葉が投げ掛けられる。
「ごめ…、あの、おれ…掃除当番だったから」
「そんなことが言い訳になるとでも思っているのか」
感情がこもっているのかもわからない声が、オレの全身を冷やした。
「ごめん…なさい」
大人しく謝ると、
そこでようやく、水都が顔をこちらに向けた。
怒っているわけでもない。いや、どちらかというと…笑っているような。
「…ここへ来い」
「はい…」
逆らうことはもうずっと前からやめている。
水都の言葉に従って、一歩、また一歩と、足を進めた。
そして水都のすぐ目の前。
「やはり、お仕置きが必要なようだな」
「ぁ…っ」
水都の手が、素早くオレの腰に回される。
引き寄せて服を引っ張ると、屈むような姿勢になったオレの唇に、水都が唇を重ねてきた。
驚く暇さえあたえられず、水都の温かい舌が入ってきて、口中を侵す。
…でも、イヤじゃなかった。
オレも迷わず舌を差し出して、水都のそれに絡める。
淫猥に濡れた音が、オレと水都の重なった部分から聞こえた。
「ん…っ、…ふ…」
長い間触れ合っていた唇がようやく離れた時、オレは物足りなさすら感じた。
「水都…っ」
その身体に縋り付いて、もっとして欲しいと、目で訴える。
「…ふ、どうした。…足りないのか」
「…っ…」
何度も首を縦に振った。そんなオレを見て水都が、楽しい玩具を見つけたかのような、実に楽しそうな笑みを浮かべた。
「やっと自分の立場というものがわかったのか?」
「…水都…今日、誕生日だから…」
俯いてとぎれとぎれに言葉を紡ぐ。

…そう、だからオレは…
自分を、水都へのプレゼントに選んだんだ。

「だから、オレもう、水都のものだから…」

こんな決心をしたからには、もちろん、誕生日だからってだけじゃなく、この行動に伴う感情だってあった。
つまり、
オレは、水都を好きだっていうこと――。
オレの言葉と態度に、水都はとても満足げだった。
オレもまた、それを嬉しいと思う。

その気持ちは、行動で示そう。

上着は脱いで、イスに腰かけている水都の膝の上に跨がる。
再び唇を触れ合わせれば、それ以上を求める、水都の熱いキスが返ってくる。
その間に体中を撫で回されることも。
そうされていると気付かないぐらい、あっという間に素肌をあらわにされることも。
いつから、イヤじゃなくなったんだろう。
…いや、そんなこと、考えるだけムダだ。
だってオレは、オレが水都にプレゼントした、「オモチャ」なんだ。
オモチャは、遊ばれて喜びを得るんだ。



「…ゃ、あ…ん…!水都…っ、みなとぉ…っ!」
「…ククッ、いいぞ羽柴。もっと脚を開いて腰を振るんだ。…いっそう淫らにな…」
「…ぁっ、はぁ…っ!!」


――羽柴?

…違う。
オレは………


オモチャ

なんだ。


End



―「*プレゼント*」あとがき―
何年か前の真一朗さんの誕生日に、カラメ配信したものです。
水空のハッピーエンドって、こういう感じかな。私の好きな水空のひとつです。

2006.12.17
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