好きしょ【空色の花】

□水空小説
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 *迷路と罠*

――その日、学園の上空に文字通りの暗雲が立ち込めているように、

水都真一朗は、とても機嫌が悪かった。

それというのも、最近なんでも屋のすることに、空たちの担任である梅谷が、色々口だししているというのを耳にしたからだ。
もちろん、梅谷としても悪気があってそうしているわけではないし、まして、水都を怒らせるつもりなんてさらさらない。
それに、どちらかというと、感謝してもいいぐらいの事だ。
すぐに会って相談出来ない水都よりも、朝礼や終礼の前後に必ず顔を合わすことのできる梅谷の方が、空たちも、ちょっとした相談事はしやすかったのである。
しかしそれを、担任のでしゃばった行動ととらえてしまった真一朗は、気分がいいはずがなかった。
「くそ…っ、顧問は誰だと思ってんだ」
今朝祭から、梅谷に助言を貰うこともあると聞かされてから、ずっと苛々していたが、なんとか、人や物にあたらずに一日をクリアできた。
――と思っているのは本人だけで、実際には、そんなことはないのだが。

とりあえず一息つこうと、数学教諭室に足を向ける。
ボーッとしたまま教諭室への角を曲がろうとした時、
「…あれ、あいつ…」
数学教諭室の前に、意外な人物の姿を見つけ、真一朗は足を止めた。

(空じゃないか…)
数学教諭室の前にいたのは、真一朗に憧れる、元気でかわいい弟子の羽柴空だ。
(…またあれか)
空は真一朗の背中をとるという課題クリアを目指すため、時折放課後に姿を見せる。
今日もきっとそうなのだろう、教諭室の扉を僅かに開き、隙間から中の様子を窺っている。
しかし、それにしても…
「…ぷっ」

(めちゃくちゃ、腰ひけてんじゃねぇか)
角から真一朗が見ているのにも気付かないで…。
どう見ても、あの体勢は「すぐに逃げられる」体勢だ。
そんなかわいい姿を見ていると、嫌でも悪戯心が疼いてしまう。
(よし、気晴らしも兼ねて、いっちょからかってやるか)
そう決めると、真一朗は気配を消して、足音をたてずに足を進めた。

空は中の様子を窺いながら、少しずつ室内へと入っていく。
真一朗から見えているのは、もはや誘っているかのような、ひけぎみの下半身だけだった。
(無防備だなあいつ…)
少し心配にもなるが、憂さ晴らしをしたかった真一朗にとっては、都合がいい。
全く気付かれることなく空の背後にやってきた真一朗は、迷うことなく、その腰を両手で捕まえた。
「…ひゃっ!」
空は飛び上がるぐらいの勢いで驚き、恐る恐る後ろを振り返った。
「…げ!水都…!」
「何だ、またもてあそばれにきたのか?」
「ふ…っ、ふざけんなっ!んなワケ…っ」
空は必死に抵抗するが、力ではかなわず、腰はがっちりと掴まれたままだ。
「…大声を出すと、周りに聞こえるかもな?」
「……っ」
ニヤリと嫌な笑みを浮かべて耳元で囁くと、空は慌てて口を閉ざす。
真っ赤になったその顔があまりにかわいすぎて、真一朗は、予想以上に癒されることとなった。
すっかり機嫌のよくなった真一朗は、そろそろ勘弁してやろうか、と思った。…が。
(もったいなすぎる…)
そう思い直すと、空を片手で押さえつけ、空いた方の手で、そっと扉を閉めた。
「みな…っ!」
空が危険を察知したのか、焦って暴れだした。しかし、真一朗にとってはたいした抵抗ではない。
「大人しくするんだ」
「や…」
か細いその声が、更に真一朗の欲情を煽る。
鍵までかけると、真一朗は、空を優しく背中から抱きしめた。
「みな…と…」
最初は全身で抵抗をしめしていた空だったが、気が付けば、いつの間にか全くの無抵抗だった。
いつものように、無理矢理押さえ付けたりされないのが不思議だという顔をして、大人しく抱きしめられている。
「羽柴…」
「…っ…」
抱きしめたまま耳にキスすると、腕の中で空が身体を震わせたのがわかった。
(やっぱ可愛いぜ、空〜っ)
絶叫したい気持ちを、何とか押さえ付ける。
家では真一朗にべったり甘えてくるのが愛しくてたまらないのだが、たまにはこういうのもいい。真一朗は、顔には出せないが、心の中で笑った。
「感じているのか?」
「…っ、誰が…っ」
口ではしっかりと強がっている空だが、
「身体は、喜んでいるようだが?」
「……っ!」
首筋を舐め上げると、空の身体が、ピクン、と反応した。
「や…めろよ、水都…」
「…断る」
ここでやめるなんて、そんなもったいないことを、できるはずがない。
珍しく気持ちが焦り出した真一朗は、素早い動作で自分のネクタイをほどくと、そのまま空の細い両手首に巻き付け、あっという間にきつく縛り上げてしまった。
「ぁ…、水都…っ」
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