Novel

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それはとある日の日曜日
厳密に言えばツナ君がボンゴレ10代目を継ぐ継承式が行われる数日前
みんな緊張とか不安とか歓喜とか憎しみの
感情で民宿の空気はざわついていた。
一応シモンの中でトップに立つ僕だけど
本当にツナ君を信じなくていいのかな?とか
本当はいい人なんじゃないだろうか?とか
シモンの面々とは違った意味で心が乱れていた
落ち着かないし不安定だし、僕が1人勝手にこんなこと思ってるなんて
知ってしまったら皆は怒るだろうか?
アーデルハイトやジェリーなんかには特に心を見透かされているような気がして
自分の家とする仮住まいの民宿は居心地が悪かった
「ちょっと出てくる」なんて言って、することも無いのに家を出た
時間を無駄に過ごすことを目的として。



客が真っ先に目が着くのは店先の、色とりどりな商品が並べられているショーウィンドウ
店の従業員は開店前に隅々を磨き上げてお客を待ち構える
埃や傷なんて全くついていない新品のようなガラスの一つに僕の目は釘付けになった
可愛く飾られた見本の午後のティータイムセット
その横に立てかけてあるメニューにはパティシエお奨め!などと書かれている
店の中は女性客が賑わっておりテーブルの上には見本など比じゃない
キラキラと優しい光に包まれたイチゴのショートケーキや
ブルベリーのジャムのかかった焼き具合が丁度良さそうなタルト。
ミルクの波紋が揺れて湯気が漂う紅茶などが置かれている

おいしそう・・・・

無意識のうちに炎真の顔は物欲しそうな表情になっていた
いけない、いけない。
首をブンブンと振ってから立ち去ろうとしたがどうしても出来ない
なんでこんなにおいしそうに見えるんだろう・・・?
ポケットに手を突っ込んでお金を確かめると
昨日寄ったコンビニできっちり使い切ったため入っていなかった
確かお金を1円も持ってないからって不良連中にも殴られるだけ殴られたっけ
痛かったなぁ、と出来たばかりの生傷をチラリと見た
どうせ買えないんだから。
今度こそ諦めをつけて家へ帰ろうとした、のに

「あれ、炎真くんだ!」

回れ右をしそうだった背中がギクリと震えた
ツナ君。君のせいで僕は悩んでここにいるんだから・・・
そのまま無視して行こうかとも思ったけど出来なかった
意思とは逆に振り返って挨拶をしている自分が居る

「こんなところでどうしたの?」

どこか嬉しそうな笑顔の下に凶悪な顔は存在するんだろうか
信じたくは無い、でもそれがボンゴレ・・・!!
初代シモンのコザァートだって騙されていたんだ
ぐるぐるとめまぐるしく感情が激動する
信じたい、誰かでもいいからツナ君は善者だと告げて欲しい
苦虫を噛み潰したような炎真の表情に困惑しつつもツナは
空気を換えようとして笑顔を浮かべて話しかける。

「もしかして炎真くん、ケーキ買いに来たの?」
「・・・・・えっ」
「え、そうなの!?なんか以外だね」
「いや、僕は・・・・」
「俺も実は母さんたちに頼まれちゃって
 でも1人じゃ入る勇気もなくてさ・・・・」

困っちゃうよね、と苦笑したツナ。
どうしてこんなことで悩んでたんだろう
帰ってから相談したらいい、僕の考えを
きっと理解してくれるはずだから。
少しでもツナ君と一緒に居たくて踏み出した一歩はもう戻れなくなっていた

“僕もこの店に入るよ”肯定のサイン

一つは帰ってから解決するとして、たった今出来た問題
店の入り口に足を踏み入れてしまった僕。
メニューを見ながら微笑みかけてくるツナ君。
どうやってこの事実を告げたらいいんだろうか

「実は僕、いま一文無しなんだ」って

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