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□臆病な君から
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立春を越えたのだから暦の上ではもう春。
でも今日も、まだまだ寒くて白い息が出る

「さむ・・・」

学校に向かう足取りが重たい。いつにもまして重たい。
今日はあの2人のそばに居たくない
頭脳明晰、容姿端麗で不良チックななところが人気の自称右腕
運動神経抜群、爽やかな笑顔で頼れる野球部馬鹿
そう。獄寺隼人と山本武
今日は一年で最も自分が惨めに感じる日

臆病な君から

「10代目!!おはようございます!!」
「・・・獄寺君、おはよう」
「ツナ顔色が悪いな。大丈夫か?」
「おはよう山本。何とも無いよ!」

あぁ。朝から会ってしまうんだよな・・・やっぱり
獄寺君と山本はまた2人で喧嘩をし始めた
騒ぎまくってると周りの視線が痛いけど今日は違う
熱い視線がすごいんですけどー!!
道端に居る女子はどうやって2人にチョコを渡すかで騒いでいる
まぁ、全部気持ちいいくらい俺じゃないんだよね・・・

「はぁぁ」

惨めになって、惨めな自分にため息を漏らす
誰か1人くらいくれたらいいのに・・・なんて、毎年同じことを思っている俺って
自分に嫌気がさす。こんなダメツナ、誰も相手にするはずが無い
青い空を見上げればちゃんと太陽はそこに居るのに吹いてくる風はとても冷たい
今の俺の心みたいに向かい風は冷え切っている。

--->

教室に行くまでに2人は抱えきれない量のチョコレートを貰った。
靴箱を開けば雪崩のように零れる
廊下では顔を真っ赤にして渡していく女子を何度見たことか。
もう嫌だ・・・・
なんで俺この2人と一緒に居るんだろう
教室について机に鞄を下ろす
教科書の中身を取り出して机にしまう

「・・・え?」

コツンと指に何かが当たった。
硬くて、箱・・・・みたいな、何か
吃驚して教科書を落としそうになったけど何とか押し込んでから指に当たった物を取り出す
茶色のシンプルなデザインの箱の上には、不釣合いなほど不器用に結ばれたリボンがあった

「これって・・・・まさか・・・・」

・・・・チョコ?
嘘だ。今まで一度も母さん以外から貰えなかったのに・・・!?
あんなに一杯貰ってた2人を見た後だけど、あの量に勝るぐらい嬉しかった
中をそっと開けてみると丸いチョコが並んでいた
でも一体誰が・・・?
いつもは憂鬱なこの日。だけど今年は・・・

--->

家に帰る途中で何度も鞄を見直した。
本当に、チョコが入っているかって・・・

「ある。・・・・俺の、チョコが・・・!!」

たったコレだけのことで人を幸せにできたこの子はすごいと思う
でも困ったな・・・誰かわかんないからお礼いえないな・・・
人影が見えたのでチョコを持っている手から顔を上げる
学ランに風紀委員の腕章ってまさか・・・雲雀さん!?

「君、その手に持ってるの何?」
「えぇっと・・・」
「風紀を乱すようなもの持ってるんだったら・・・・咬み殺すよ」
「ひぃぃ!!!」

ヤバイ!!俺のチョコもって行かれるー!!!

「ねぇ、僕の話聞いてるの?それ、何?」
「こ、これは・・・えーっと・・・・」

冷や汗がダラダラと流れる。背中にピリリと電流が流れるような感覚がした
思いつかない・・・いい、言い訳が・・・
でもこんな人に言い訳したって見破られる気がする。
まず、何言っても咬み殺されるってー!!!
雲雀さんから一歩一歩後退するも間合いを詰められる
どこからともなく取り出されたトンファーがツナ目掛けて振り下ろされる
反射的にきゅっと目をつぶった

─・・・痛く、ない・・・?

「何?君」
「わ、わわ、私・・・・私が、あげたから・・・沢田君を、沢田君を怒らないで下さい!!!」

振り返ったときにふわりと流れる髪。その隙間から見えた恐怖に揺らいだ大きな眼。
目元には涙が溜まっていた

「ごめんなさい・・・私が、悪いんです・・・」

気づいたら前に出ていた。怖かったけど、この子に誤らせちゃいけない
俺はこの子に笑顔を貰ったんだから

「雲雀さんごめんなさい!!!でも急いでるんでっ本当すみません!!!!」

パシッと手を掴んで無我夢中で走る。
怖かった。だってあの雲雀さんだよ?怖いわけが無い
でも、振り返ったときに雲雀さんの姿は無かった

「ありがとう」

そう言って改めて顔を見たら爆発するんじゃないかってくらい真っ赤だった
その目線は繋いだ手だったのであわてて離す。

「ごご、ごめん!!ついっ」

俯いたままの彼女に見えてないだろうけど笑いかける。
そして・・・

「俺、チョコ貰ったの初めてで・・・とっても、嬉しかった!」

ゆっくり顔を上げた彼女の顔には極上の笑顔があった


寒空チョコレート

(今度会ったとき、覚悟しなよ) (雲雀さん本当ごめんなさい!!) (咬み殺さないで、あげてくださいっ)

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