short

□夢十夜
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夏目漱石の「夢十夜」第一夜を
フラツナにしてみた感じです
作者なりの夢十夜の解釈が一部入っておりますし
夢十夜を汚すな!と思われる方は読まないことをお勧めします



こんな夢を見た。
いつか見た時代劇のセットのような和室
大きなふすまは開け放たれていて覗く庭はとても綺麗だ
どこからか川のせせらぎが聞こえてくる
大きな広い部屋、その中央に布団がひかれていて
自分は寝ている人物の枕元に座っていた
仰向けになって頭まで布団を被っているのは沢田綱吉
もぞもぞと身体を動かしてフランの方へと顔を覗かせた。
こんなところ来たこともないし、ボンゴレファミリーのボスである
彼が自分と同い年くらいの容姿をしているのも、全て全ておかしかった。
あぁ、きっとこれは夢なんだろう
そう気づくのに時間はかからなかった
でも夢の中でいま自分は現実の世界に居ないんだなんて事を
自覚しているのも変な話で、一体どうなってるんでしょうか

「もうすぐ、死ぬんだ」

静かな声で、でもはっきりと。
ゆっくりと開かれた瞳は一面の蜂蜜色
今にも蜜が溢れてきそうな彼の目には自分の姿が揺れるように映っていた
肌の色は人より少し色白で、布団を被っていたことにより
顔は熱を持ち頬はほんのりとピンクに染まっていた
健康極まりない姿でそんなことを言われても冗談にしか聞こえないけれど
今の自分はすんなりと受け止めて「そうですか、逝くんですねー・・・」と呟いていた
ゆっくりと綱吉へと顔を寄せればフランの髪の毛が柔らかく触れて
くすぐったそうに目を細めてにこりと笑って見せた

「本当に、死ぬんですかー?大丈夫ですよね?」

落ち着かずに早口で告げると、ちょっと眠たそうに目を伏せてから
「でも、死ぬんだから、仕方ないよ」と言った
自分の姿はゆらゆらと彼の瞳に写っているけれど
綱吉自身には見えていないんじゃないだろうか?
そう思ってミーの顔が見えてますかー?と真剣に聞いたのに
先程と同じ笑顔でそこに写ってるだろと言われてしまった
そこでやっぱりどうしても死んでしまうんですねー、と
納得している自分がいて妙な感覚がした。

「そうだ、死んだら埋めてよ。
 大きな真珠貝で穴を掘って、空から落ちてくる流れ星を
 墓標にしたら墓の傍で待ってて欲しいな」
「次はいつ、逢えるんですかー・・・?」
「朝日が出て、夕陽が沈んで、また昇って、沈んでいく
 ──その間を、フランは待ってられる?」


そんなの決まってるじゃないですか
黙って頷いて肯定した
すると静かな調子で声を張り上げて

「100年、待ってて」──言い放った
「100年墓の傍で座りながら待ってて?きっと、逢えるから」

待ってる、逢える、逢えますよー・・・
ずっと──待ってます。
答えたと同時にはっきりと写っていたフランの姿が
風になびいて水面を揺らすようにぼうっと崩れた
ぱちりと目は閉じられて一滴の涙がすっと頬を流れていった

もう、死んでいました。

ゆっくりと立ち上がって縁側へと歩く
綺麗に整備されていた庭を見渡し1本の松の木の下
平らに広がった柔らかい土を大きな真珠貝で綱吉が入るくらいに掘った。
湿った土の匂いがしておもいっきり吸い込んだ
土をすくうたびにきらきらと真珠貝の裏に月光が差した
ふぅっと息を吐いて上を見上げればたくさんの流れる星
どんどんこちらへおちてくる。
ぴかぴかと光を放ちながら、おちる、おちる
そのうちの一つを綱吉を埋めた土の上へ軽く乗せた
先程のような光は無くて大空を駆ける間に角が取れて
滑らかになった破片を握ると自分の胸と手が少し暖かくなった

松の木下に座り込む
これから100年長い間ずっと待ってるんだ
目を閉じて深呼吸をしてからもう1度目を開けば
まん丸とした紅が昇っていって、それから今度はでのっと落ちていった
これで1つ、と数えていたけれど
途中からこれで何回目か分からなくなって数えるのをやめた
何度太陽は頭上を行き交っただろうか?
まだ来ない、まだ経たない、100年が遠い。
見上げる松の木との距離が遠くなったのを実感していると
もしかしたらあれは綱吉の嘘だったんじゃないかと思い始めた
自分の座り込んでいる芝生が徐々に成長して
ゆらりと風に吹かれた蓮華の花が骨に徹えるほど匂った
ザァァと思わず顔を覆いたくなるような突風が吹き
紅紫の花びらは空に美しく散る
ふらふらとまだ動いている一輪の蓮華に近づいて
甘い香りを吸い込んでから花弁に唇をおとした
蓮華から顔を離したとき上を見上げれば暁の星が一つ瞬いていた

「もう、100年は来てたんですね──」
この時に初めて気がついた。

(彼の匂いによく似ている気がした)

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