廻る魂達の重奏曲2

□☆♪図書室談義
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しかしそんな様子を見ながらでもジェイドの表情は穏やかなものだった。
「おや、もうシンクとも仲良しなのですか。いい事です。ロミーも溶け込めていますか?リタとは反発し合いそうですが」
盤上に駒を並べていきながらアリエッタ、リタ、ルキウスの三者に尋ねる。
「そういえばロミーはよく転移を使うかな?どうやら原因はコレットのドジっぷりから逃れるためだって」
「ルビアは合唱部の扉を叩いたそうよ」
「うん。合唱部の部活によく来てるよ。ロミーはエステルと仲良くなってたかな?絵をよく見てたもん」
ルキウス、リタ、アリエッタの順に最近入ったルビアとロミーについてジェイドに言った。
「そうですか。みんな、楽しくやっているようですね。それにアリエッタに同年代の友達がたくさんできてよかったですよ。これで私も安心できました」
駒を並べ終わり、腕を組むと、そう言いながらアリエッタへ微笑む。
「でもアリエッタにとってジェイドも十分過ぎる友達なんでしょ?同年代以上の仲みたいだし」
違うの?とリタがアリエッタに言うとそれを予測していたように大きく頷いていた。
「でも私はもう卒業してしまいますから。この敷地内の大学部に進むつもりですが今よりはずっと時間がとれなくなります」
ジェイドはどこか悲しげともとれる表情を一瞬見せ、それでもすぐに戻す。
「まあ、今生の別れではないわけですがね」
「卒業……避けられない道なのね」
「せっかく先輩に助けてもらったのに……」
「ジェイド先輩なら近くにいるしこっちにも顔を見せてくれるよ。それに許可がもらえるから大学に顔を出せるよ。だから寂しくないし今を楽しく過ごせばいいの」
暗くなった二人にまるで諭すようにアリエッタが言った。
「アリエッタの言う通りですね。リタに至ってはいつ私から一勝とれるかという楽しみもありますし」
盤を指差し、湿っぽくならないようにからかいも含めながらジェイドが言う。
「そうね。ルキウスも仲間入りみたいだし」
「誰も仲間入りなんて」
リタに言われて反抗しようとしたルキウスだったが盤を見るなり少し笑った。
「いいかもしれない。盤を持っていればあの作戦も実施しやすくなる」
「どの作戦よ」
「別にリタには関係ないでしょ?」
しれっとリタをかわしてジェイドを見た。ルキウスはいつでも後ろを取るぞ、という雰囲気を込めて。
「どちらにせよ、受けて立ちますよ」
ジェイドはルキウスに対してにっこりと笑うと言い切る。
「二人で何か勝負してたんだ。二人って昔の知り合いだったの?」
「絶対にそんな関係じゃないわ」
首を傾げたアリエッタにリタが二人を見つつ否定の言葉をかけた。
「そうですよ、つい先日知り合ったばかりです。私は成り行き上、彼の事をよーく知ってますけどね」
意味深に笑うジェイドは楽しげに盤の進行具合を眺めている。
「例えばどんなのよ」
「単なる教会の雑用係だっただけさ」
リタと同じように駒を持ってパチンと盤に置いたルキウスが素っ気なく答えた。
「それと昔も今もお兄さんが大好きだとか」
にやりと口角をあげながらさらっと続けると、ジェイドはすぐに次の手を打つ。
「そ、それは!」
「そっか。私はお姉ちゃんだからわからないけどお兄さんがいるんだね」
「反応を見たところあまり知られたくない事実のようね」
アリエッタは両手を合わせて驚いたようにしていたがリタの方は弱味を知って嬉しそうな顔をしていた。しかもジェイド本人は、そうみたいですね〜と素知らぬ顔をしている。
「実はルキウスも相当なツンデレなんですよねぇ」
更には今の状況がツボにはまったらしく、かなり楽しんでいる。
「もういいです!」
ルキウスは自陣の王将を前へ進めた。
「怒っちゃ駄目だよ。冷静な思考で……、ね?」
あくまで静かにアリエッタが言った。
「とか言ってみんなが楽しかったらいいの」
「アリエッタは本当にそういうの好きよね〜。むしろジェイドも悪乗りが過ぎるのよ」
「すみませんねぇ、根が素直なもので」
謝る気があるのかないのかおどけた口調で言うと、駒を動かす。
「王手ですね。逃げ場はありませんよ?」
ジェイドの一手にルキウスは放心した。そのあまりに容赦のない一手に対して。その盤を見てアリエッタが歓声をあげた。
「勝負ありだね」
「………しまった」
「こういうのは心を乱した方が負けるのよ」
王手よ、と言ってリタは桂馬を置いた。
「おや、これは手厳しい」
苦笑を浮かべて盤を見下ろすジェイド。だがルキウスとの勝負がつき、リタとの盤上を見据えると、いつになく真剣な表情を向け、駒を動かす。
「まだ手が甘いですね。王をとるならば、容赦なく攻め立てなければ」
「そうだね。王を攻めるのであれば全兵力で殴り込みに行くのが道理さ」
負けたにも関わらずリタの方の盤を見てルキウスが頷いた。
「うるさいわね!負けたあんたに言われたく……」
「でも奥手になりすぎると私みたいに王様に触れられないよね?」
リタの言葉を遮ってアリエッタは同意を求めるようにジェイドに尋ねた。
「ええ。アリエッタはもう少し積極的にならなければ。ああ、そうだ。リタには言いましたか?私、今まで生きてきて、将棋では誰にも…一度足りとも負けた事、ありませんから」
アリエッタへ頷いてから、ジェイドはくすくすと笑うと自分の王将を指した。
「私の王は、一筋縄ではとらせませんよ〜」
「その伝説、今こそ打ち破るときよ!」
意気込んでもう一度盤に集中するリタを背にアリエッタはジェイドの側にいって囁いた。
「ジェイド先輩の王様ってもしかして……」
「さて…どうでしょうね」
ふわりと微笑むその様が、アリエッタの言わんとしている事を肯定していた。
「別にアリエッタとルキウスがリタに助言しても構いませんよ?それで勝てるのならね」
「いいや。ボクはここで見学させてもらうよ」
「うん、私も二人の勝負を見ていたい」
アリエッタは本音だったがルキウスは助言をしても勝てる気がしなかったらしく観戦を決め込んでいた。
「リタは戦略を立てるのが巧いですね。いつも違う手で来るのでひやひやしますよ。今もまさか『王手』なんて言葉を言われるとは思いませんでしたから」
あくまでも盤上を真剣に見つめながら駒を動かしていく。
「いつも同じ手じゃ、同じ手で返される。そういうのあたし嫌だから」
駒を見つめながらジェイドの言葉に答えた。


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