慈愛の女神

□☆慈愛の女神 6章
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 一度の奇襲のみで後は問題なく、順風満帆、船はパダミヤ大陸へ近付いた。
 午前10時。
 「もうすぐ、ですねぇ」
 甲板から近付く大陸を見ながらジェイドが呟く。
 「あそこにアニスとティアがいるの?」
 隣からそう尋ねて見上げるエメルディアへ頷く。
 「ええ、ガイやルークも居ますからね」
 「そうだけど、大佐はまずその優秀な治癒士って人に治療してもらってね」
 ジェイドの言葉に続けるのはセイチェル。後ろから歩いてきながら咎めるようとも念を押すようとも思える声色で話に入り込む。
 「はいはい、私もいつまでも足手まといは御免ですからね」
 ジェイドはそう言い肩を竦めてため息を吐くが、実際昨夜の働きはまるで足手まといではなかった。と、ジェイドの様子にセイチェルはため息を吐きたくなった。貴方の足手まといの基準とは、と。
 「痛み止めを使わなければならない体は足手まといですよ」
 唐突にそう声をかけられ、思わずセイチェルは声に出してしまった。
 「エスパー!?」
 「失礼ですね。超能力者ではありませんよ。そんな非科学的な…。科学的に解明できない事は信じられませんよ」
 更にため息を吐くジェイドだが、セイチェルはその言い分に納得できるわけがなかった。
 <背中を向けたまま人の心の中を覗ける貴方が非科学的よ…>
 「おや〜?失礼な事考えていますね?」
 「!?な、なんでもないわ!」
 振り返り、にっこりと微笑みかけてくるジェイドに、セイチェルは改めて[一筋縄でいかない人]という認識記述を付け足した。
 「おねえちゃん、おにいちゃんは?」
 ジェイドの不気味な微笑みから視線を逸らし、斜め下の声がする方を見やると、天使の微笑みが視界に入った。
 「レミレス?そういえばまだ眠っていたわ」
 「ふむ、寝坊は感心しませんねぇ…。エメルディア」
 セイチェルの言葉の後に続けたジェイドは隣のエメルディアを見下ろす。同じように見上げてきたエメルディアはこくん、と可愛らしく頷くと船内に走っていった。
 「なに?なんだったの?」
 「いえ〜、可愛らしい目覚ましですよ♪」
 顔を見合わせただけで何がわかったのだろうと、エメルディアが駆けて行った方を見ながら呟くセイチェルに、ジェイドは軽く答えた。それから1分も経たない内に、船全体が揺れる程の悲鳴が響いた。
 「え…っと…」
 セイチェルが訴えかけるようにジェイドを見るが彼はにこにこしているだけだった。それからすぐにばたーんと盛大な音で扉が開き、生真面目そうな彼には似つかわしくない、着乱れて髪もあちこちが跳ねている状態のレミレスが駆け出してきた。
 「おはようございます、レミレス」
 何か言葉にならない言葉で訴えるレミレスへ清々しい笑顔で挨拶するジェイド。ちなみにセイチェルは混乱するばかりだった。後から駆けてきたエメルディアは相変わらずの天使の笑顔。それどころか、何処か満足げにも見えた。
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