廻る魂達の重奏曲2

□☆旋律に乗せる願い
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昼時、多くの生徒が昼食の為あちこちへと移動している中、珍しくジェイドは中庭にいた。大きな木に凭れて凄まじい太陽の陽射しを揺れる葉で和らげながら何度も読み返してしまった本を退屈そうに閉じる。飯を食え!と口煩く心配性な追っ手数名に見つかる前に移動しようと思っていると滅多と感じないひとの気配。それが自分を探しているのだとわかるとジェイドは立ち上がり、キョロキョロと周囲を見回しながら校舎の影から現れたそのひとに声をかけた。
「ティア。ここですよ」
にこりと微笑み、手をあげて自分を呼ぶジェイドの姿を確認すると、ティアはよかったと安堵の表情を浮かべてから、そちらへと駆け寄る。
「どうしました?珍しいですね」
目の前まで来て、あがってしまった息を整える為に何度も深呼吸を繰り返すティアに、やんわりとした口調で尋ねるジェイド。

結局落ち着くまで数分の時間を要し、やっと落ち着いた時、ティアは取り敢えず急かさず待っていてくれたジェイドに礼を述べ、それからすぐに勢いよく頭を下げた。
「テ、ティア…?本当にどうしました?」
まず滅多と関わってこないティアが自分を探していたという事から、今現在のこの状況。何故こんな事になっているのか、ほんの一欠片の理由も思い浮かばないジェイドは僅かな驚きと動揺を浮かべながらティアの顔を覗き込む。そうすればゆっくりと顔をあげたティアは彼女らしくなく、まなじりを下げてどこか泣きそうともとれる表情を向け、周囲を窺うよう見渡し、再び頭を下げた。
「ごめんなさい。ジェイド先輩、体が弱かったんですね。なのに、私、以前に何も知らないで教師達の手伝いをしてしまって……」
ティアの態度と言葉での重ねた謝罪よりも、ジェイドにとっては気になる単語が耳に入り、目を見張った。
「……どこで聞きました?体が弱い、などと」
できるだけ他人に弱味を知られたくない、今までそうしてきたジェイドにとって、今正にあまり関係を持たないティアからのその言葉は心のどこかで許せない言葉だった。自然と冷めた口調になってしまい、それに気づいたティアは急いで、違うんです!と声と頭を上げた。
「あの……、ルークと、ロイドが話しているのが聞こえてしまって…。私は音律士の能力がありますから聴覚は良すぎるくらいで…」
言いにくそうにところどころで言葉を切りながら告げると、けれどと必死な表情で続ける。
「ルークもロイドも決して悪くはありません!……ただ、私も盗み聞きするつもりはなかったんです……。ごめんなさい……」
そう、ただひたすら謝罪を続けるティアに、ジェイドもいつまでも無言でいるわけにはいかなかった。本当に心から悪いと思い、怒られてしまうんじゃと怯える彼女が全く悪くないというのは理解できるから。だが認めるのも抵抗があり、暫く黙ると何と言えばいいかと音を発しないままの口を開き、ややあって眼鏡のブリッジに手を添えた。いつになく大きなため息を零すと、それのせいでビクッと肩を震わせたティアに近づき、俯く栗色の髪にそっと触れる程度に手を置いた。
「もう、いいです」
二、三度頭を撫で、また距離を置いたジェイドはなるべく柔らかな声で言った。
「ただし、他言は無用に」
「は、はい!」
続けられた言葉に顔をあげたティアは大きく返事をして頷いた。そんなティアに微笑むジェイドはそれで用は済んだと背を向ける。


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