廻る魂達の重奏曲2

□☆呼び覚ます魂と記憶
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例え『異端者』と呼ばれる者であろうと、分け隔てなく愛されるべきである。

それを成し得たのが学園の理事長たるネビリム。

けれど、『能力者』達の長たる彼女も気づかぬ場所でひっそりと輝く光が六つ、誕生していたのだった。




「で、どうして貴方達まで来ているのですか」
休日、土曜に電車に乗り、遥々南までやってきたジェイドだったのだが、目的地の駅に着くと、ピオニーを始め、ゼロス、ユーリ、フレンが然も当然のように、我が物顔で先回り………待っていたのだ。そんな現状を認めたくなくて回れ右で電車に戻ろうとするジェイドだったのだが、勿論そんな事が許されるわけもなく、ピオニーに前に立たれ、ゼロスに後ろからのし掛かられる。
「なんだよ〜、折角来てやったのにつれねーなー」
「つれなくて結構。誰がそんな安い餌にかかりますか」
けらけらと笑うゼロスを引き剥がし、取り敢えず裏拳で地面に沈めると、ピオニーを睨み付ける。
「何故、ついてきているのです。部活はどうしました。それにユーリやフレンまでいる理由は?」
ビシィッ!と、実はかなり乗り気でリュックや鞄まで持っているユーリとフレンを指差しながらピオニーへ詰め寄るジェイド。

今回は一泊二日でとった宿で気分転換でもしようと思っていたジェイドなのだが、何故か気分転換どころかいつもと変わらない心労を負いそうになっている。そもそも、ピオニーには予め予定を告げてあったし、一人で外出する許可もとった。なのに、どうしてこんな状況になっているのか納得がいかないのだ。

「いやー…、それは、その、まぁ…あれだ」
「わけがわかりません」
苦笑を浮かべながらはっきりとしないピオニーはジェイドの容赦ない正拳を顔面に見舞われる。ピオニー、ゼロスの両者と話しても埒があかないと普段からの教訓で学んだジェイドは、仕方がないとユーリを向く。
「あ?オレはあんたが旅行なんて意外だからついてきたかったっつー、所謂野次馬だけど?」
案外さらりと簡単に答えたユーリに拍子抜けしながらも次いでフレンを見る。同じ生徒会所属というわけでもないフレンが、何故休日にわざわざお馬鹿コンビ(勿論地面と仲良くなっている二人)と行動を共にしているのか不思議でならないのだ。
「僕も君に興味があったからだよ。君の事をよく知る事が出来れば、きっと授業に出させるきっかけが見つかる筈だからね!」
「はいはい、無駄足ご苦労様です。にしても、ユーリ。根が正直なのはわかりましたから隠すところは隠したらどうです?野次馬なんて堂々と宣言する事じゃないですよ」
ぐっと拳を握って高らかに声をあげたフレンは、ジェイドの手によって呆気なくぶっ飛ばされた。そして興味なしの烙印を押され完全にスルーしながらユーリにため息を零す。
「まあ、そう言うなって。ピオニーもゼロスもあんたを心配してんだよ。心当たりねー筈ないよな?」
「……。…だ、だからと言って、何故先回りなんてしているのですか」
ユーリのごもっともな言い分に切り返す言葉を失い、ジェイドは視線を斜め下へとずらすと、眼鏡を押し上げながら聞き返した。ジェイド自身、本来なら強い立場に出られない事は理解している。今回もずいぶん勝手をしているとわかっている。それでも何も言わずについてくる事はなかっただろうと文句は尽きない。
「だって、お前、ついてくって言って、頷いたか?」
蹲っていたピオニーは未だに痛む顔面を押さえながら立ち上がると、痛みのせいか涙の浮かぶ目で睨み付ける。
「それは…」
「迷惑だったか?邪魔なら帰るぜ?」
思うように返事の出来ないジェイドに近づくと背中から被さるように腕を伸ばし、ジェイドの首の前で手を組む。
「…………」
捨てられた犬のように落ち込んだ声を出されては無下に切り捨てる事も出来ずに、ジェイドは前に回された手に力なく自分のそれを添えると俯いた。ぱくぱくと声にならない声を出そうとしていたが、意を決して顔をあげる。が、
「ひゃひゃひゃ、うれしーならそう言ったらどーよ!ジェイドのツンデレ〜」
目の前に現れたゼロスの言葉を聞くなり、ジェイドは一度目を見開き少しの間、静止する。しかし一瞬にしてにやりと口元に笑みを浮かべると楽しげに目を細める。間違いなく笑っていない目を(ユーリ談)。
「私は、人をおちょくるのは好きですが…逆は嫌いなんですよ〜…」
「おい、ジェイド…、…っ!」
さすがにジェイドの纏う雰囲気が変わった事に冷や汗を浮かべるピオニーは、恐々と呼び掛けるのだが、そんなピオニーは邪魔と言わんばかりの力で繰り出された肘を腹に受ける。回されていた腕から軽々と抜けるとジェイドは、既に危険を察知してダッシュしたゼロスを物凄い勢いで追う。
「待て!ゼロス!!」
「図星ってか〜?うひゃひゃひゃ!」
そのまま姿まで見えなくなっていく二人を見送ってから、ユーリはピオニーの前にしゃがみ込む。
「おーい、死んでねぇか?」
「……なんとか、な」
ユーリの問いかけに答えたピオニーの声からは、確かに一線越える直前の苦しみが感じられた。
「待っていてくれ。…聖なる活力、来い」
フレンは周囲を見回して人が見ていない事を確認すると、呟き程度に言霊を紡ぎピオニーへ掌を向けた。そうすれば癒しの術が発動し、幾分か痛みを和らげる。
「大丈夫かい?」
「ああ、なんとかな」
「それより、あいつらどっか行っちまったぜ?」
フレンに手を貸してもらい立ち上がったピオニーに、ユーリは他人事のように愉快そうに告げる。
「――ゼロスが一緒ならいいさ。いや、寧ろゼロスだからあいつも…」
大丈夫だろうと思えば次は僅かに怒りが沸々と浮かび始める。何も遠慮なく肘打ちを食らわせていく必要はなかったじゃないかと。
「取り敢えず、追うか」
ピオニーは置き去りにされているジェイドの鞄を持ち上げると、追い掛け合いを止めるべく歩き始める。



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