廻る魂達の重奏曲

□☆♪校内攻防戦 前編
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「よりによって…こんな日に…っ」

自然と弾む息。くらくらする頭。体は休息を求め、いう事を利き辛い。けれど、
「どこへ行った!!」
近くからそんな怒鳴り声が聞こえ、ジェイドは重い体を引き摺りながら廊下を歩いた。



放課後の生徒会室。
『俺専用』と書かれた台紙を立てた机に向かうよう椅子に腰掛けたピオニーは、自分以外誰もいない生徒会室を見回した。
「おかしいな…」
今は不在の副会長の椅子と書記の椅子を見る。書記の方は野暮用で少し遅れると言っていたからそこまで気にしてはいない。問題は副会長の方だ。いつもならば時間ぴったりに現れるか、先に紙に向かい合っている彼がいない。ピオニーは珍しく酷い不安感に襲われ、多少なり進めようと思っていた紙にも集中できはしない。そわそわとしながら一人でいれば、バタンッと扉が外れるのではないかと思う程の勢いで入り口が開かれた。さすがにその様子には驚きを見せたピオニーは扉の側で息を切らしている人物を見た。
「ガイ。どうした?扉壊したら自腹だぜ?」
茶化すようにピオニーが呼び掛ければ、ガイはそれどころじゃないといった様子でピオニーの元へと近付いた。大きく深呼吸を数度繰り返し、漸く落ち着いて口を開く。
「呑気な事言ってる場合じゃないですよ、陛下!ジェイドが体育教師に追われてるって話です!」
ガイの必死さに何事かと思っていたピオニーはそう説明され、思わず「は?」と聞き返した。
「んなもん、ジェイドなら撒くだろ」
「普段なら、でしょう!ジェイド、また発作を起こしてるんですよ!?」
深く考えずに言ったピオニーへガイは一段と大きな声で返す。そうすればピオニーは今までの余裕の態度を急変させて、みるみる間に顔を青ざめさせていく。
「今、ネビリム理事長がいないから教師連はやりたい放題なんです。今のジェイドなんて格好の餌食ですよ」
自業自得と言えばそこまで。ジェイドは何かと理由をつけて授業をサボる。特に体育の授業は同クラスのピオニーですら出ている所を見たかどうか怪しい。それはジェイドが今世では生まれついて病弱であるからなのだが、当のジェイド自身がその事を他言無用にしている為、事情の知らない教師達は血眼になってジェイドを追う。常なら理事長にしてジェイドの伯母であるネビリムが裏から手を回し、教師の魔の手を遮っているのだが、今は不運な事にネビリムは理事長の会合で学校を出ている。それを好機ととった教師はここぞとばかりにジェイドを捕まえ、補習という名の嫌がらせを与えようとしている。ピオニーはあからさまに舌打ちすると、椅子をこかし立ち上がる。
「あの腐れ教師、ジェイドを目の敵にしてやがるからな。発作を起こしてるっつったって容赦ねぇだろ…っ。くそ、こんな事なら離れなけりゃよかった…!」
悔しげに言うと、ピオニーは直ぐ様ガイへ視線を向ける。
「ガイ、作戦Aだ。すぐに『奴ら』へ伝えてくれ」
「了解です!」
二人は互いに頷くと神速とも言える速度で生徒会室を後にした。
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