廻る魂達の重奏曲

□☆罪許される時
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三時限目、体育。
高3担当体育教師はもうこの言葉を言い始めて、何度目になるかわからない叫び声をあげた。
「どこに消えたカーティスーっ!!」
それは日常の光景。


そして当の本人は、校舎の屋上にいた。
「おや、今喚き声が聞こえたような気がしましたが…」
気のせいですかね、そう言うとジェイドは手にしている本を閉じ、伸びをする。

勿論、今は普通に授業時間中だ。では、この男は、何故ここにいるのか。それはこの男が間違う事なくサボり常習犯だからだ。ジェイドのサボり癖は今に始まった事ではない。寧ろ、中学の頃から有名すぎる程の話だ。なもので、中学では未だに後輩達の間で伝説的な扱いを受けている。高校ではもはや教師泣かせとして英雄だ。何せ、朝のホームルームに出て、気が乗らなければ授業にも出ないのに、決まってテストは校内一位。軽く文句も言えない。屋上から運動場を見下ろせば、米粒程の学生達が見える。
「あー、そう言えば次は体育でしたっけ」
いかにも出る気もやる気もなく言い、もう一度伸びをする。途端に、くら、と目の前が揺らぐ。
<…また…>
朝から具合が悪いのは自覚していた。けれど、いくら授業をサボろうと欠席扱いされるのは癪に障るので、と登校してきたのだ。体勢を保つのも億劫で、そのまま倒れてしまおうか、などと考えていたら、どさりと抱え込まれた。
「あれ、サボりは感心しませんよ、会長」
「…その台詞、お前にだけは言われたくないな。大体、俺はサボりじゃない。お前を探してこいって教師に泣きつかれただけだ」
「そうですよねぇ、体力や丈夫さだけが取り柄の貴方が、自主的に体育を休む筈ないですしね」
体を支えられたまま言葉だけは口からポロポロと飛び出すジェイドに、ピオニーはため息を零し、肩を落とした。
「顔色も悪いし、だから朝あんだけ休めって言ったのに。保健室行くか?」
「…嫌ですよ。あそこに行ってろくな事あった試しないですから」
それは自業自得だ、と言ってやりたくなった瞬間だ。ジェイドの言う、ろくな事がないとは、そこに行けばジェイドがいると聞き付けた教師達が小言を言いに来る、という事だからだ。
「…それより、いいですよ…戻って…ジェイドはいなかった、と…伝えてください」
そう言いながら大きく息を吐く様は、とても放っておけるようなものではなくて、ピオニーはまた一つため息を零すと、その頭を撫でた。
「素直にいてくれって言やいいじゃねぇか。前世(むかし)とは違うんだぜ?今は咎められる事もない」
「はいはい…。では仕方ないので、そのおめでたい思考通りに動いてあげましょうかね…」
それだけ言うとピオニーへ凭れ掛かり、ジェイドは目を閉じた。そうすればすぐに嫌味は聞こえなくなり、代わりに苦し気な寝息が聞こえる。
「昨夜から眠れん程調子悪かったのか」
ゆっくり休め、と言い校庭を見下ろす。
「あ〜、何て言い訳するかなぁ」
空いている手でガシガシと頭を掻いていると、ふと視線を感じる。
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