廻る魂達の重奏曲

□☆♪時を越える運命
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青い無音の世界…。いつも、いつだって私はそこにいて…、血塗れで…。赤い鎧の兵士らしき集団と戦っている…。

そう、そして、いつも王座を向いて、叫ぶのだ。音がない為わからないが、恐らく、大切だった人の名を…。
深い絶望の中、唯一音として聞こえるのは……
『大丈夫だ…何があっても、必ずお前を見つける。だから…泣くな…俺の――…』



目覚まし時計の音が鳴り響き、朝の始まりを告げる。布団の中から器用にそれを止めると、ジェイドは体を起こした。
「…また、あの夢、か」
もう10年以上、度々見る同じ夢。それが何を意味するのか、知りもしないし、知ろうとも考えない。けれど、その夢を見た朝は、必ず目元が赤く、引きつった痛みを訴え、同時に酷い頭痛に見舞われる。しかし、いつまでもぼんやりしている暇はない。ズキズキと痛む頭痛を堪えながら、ジェイドはベッドから抜け出ると、一度大きく伸びをして側のクローゼットから黒をベースにした制服を取り出す。机に置いた鞄とそれを持ち、部屋を出ると階段を降りる。途中、リビングへ鞄を放り投げ、洗面所へ向かい、顔を洗うと着替えを済ませる。

一人で住むには大きな家だが、ジェイドはこの家にたった一人で住む、今年3年になる男子高校生だ。親はとっくに他界しているし、兄弟もいない。この家も、親戚が貸してくれているのだったか、と曖昧な記憶しかない。ただ全てに無関心な為、何一つ疑問に思う事などないだけ。
「…弁当は…必要ない、か」
リビングに入ったジェイドは、キッチンへ目を向け、呟くとコーヒーメーカーの側へ行く。毎朝のようにブラックのコーヒーのみを淹れ、朝刊を開く。事件などの記事を見ながら「危なっかしい世の中ですねぇ」と思ってもいないような言葉をぼやけば、ピンポーンと軽快にインターホンが鳴った。それが誰だか理解しているジェイドは一度眉間にシワを寄せ、再び記事へ目を通す。一回のインターホンで静かになった様子に安堵するとジェイドはカップを持ち上げる。それを口元に運んだ瞬間…、

ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポーン!

「………」
吹き出さなかった自分を心底誉めてやりたくなった。未だ近所迷惑な行為を繰り返す中、ジェイドは先程とは違う痛みを頭に感じながら嫌々立ち上がると玄関へ向かう。チェーンを外し、鍵を開ければ漸く音は止んだ。家主が開けるよりも先に開いた扉からは、ジェイドと同じ黒の制服を着崩した、超非常識男が顔を出した。
「よう!ジェイド、ちゃんと飯食ったか?」
「……。毎朝毎朝律儀ですね。取り敢えず、おはようございます」
ジェイド曰く超非常識男ことピオニーはジェイドの同級生。別に近所に住んでいる、というわけではないのだが、幼児期からの腐れ縁、ようは幼馴染みという奴でこうして毎度朝押し掛けてくる。高校は勿論、中学どころか、小学の頃からこうなのでジェイド自身、もう咎める事を諦めている。ピオニーは我が家同然に家の中へ入り込み、既に所定位置と化したソファーへ座り込む。
「またコーヒーだけで済ましてやがる」
机の上に放られたままの朝刊と、側に置かれたコーヒーカップを見るなりピオニーはため息を吐いた。
「失礼な。これはちゃんとした朝食ですよ。『私の』」
きっぱりと言い切ったジェイドに、ピオニーは思い切り肩を落とした。けれど、ジェイドが改めて用意したコーヒーの入ったカップを受け取ると、ピオニーは、ああ!と声をあげた。
「今日はな、たまにはやらんとなと思って校門で服装チェックをしようと思うんだが…」
そこまで言うと、じーっとジェイドの顔を見て眉根を下げる。
「なんだ、また例の夢って奴か?顔色悪いぜ?」
元々体強くないんだから無理すんなよ、そう言いカップに口をつける。
「余計なお世話です。それより『たまに』生徒会の仕事をする気になったのなら出ましょう。遅れてはシャレになりませんよ」
ジェイドは自分のカップを洗うと鞄を持ち、先に外へ向かう。
「あ、こら。待てって」
ピオニーもカップを片付け、急ぎ足でジェイドを追う。


 時は流れ―…
  清められし魂達は―…

  もう一度巡り会う

戦乱の世を生きた者達は、互いに互いを理解し、その蟠りを解くであろう……。争いのない世界で…歪んでしまった全てをやり直す為に…。




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