新帝国建立祭

□命懸けの鬼ごっこ
1ページ/9ページ

賑やかなマルクト帝国、帝都グランコクマ。
「待ちなさい!」
声を張り上げる事など滅多としない人物の声が、宮殿内に響いた。その一人に対して逃げている側の人数は多勢。それも、面子は凄まじい。
「嫌ですよぅ〜♪」
ダアト国ローレライ教団最高指導者、導師アニス・タトリン。
「ごめんなさい、大佐!」
ダアト国ローレライ教団所属導師補佐、詠師ティア・グランツ。
「捕まりませんわ!」
キムラスカ王国次期女王、王女ナタリア・L・K・ランバルディア。
「なんで俺がこんな事を…」
キムラスカ王国第三王位継承権所持公爵子息、子爵アッシュ・ファブレ。
「俺達を巻き込むなっつーの!」
マルクト帝国皇帝専属警護、宮殿警護長ルーク・フォン・ファブレ。
「すまん、旦那!今回ばかりは譲れない!」
マルクト帝国皇帝専属警護、ガルディオス伯爵家当主ガイラルディア・ガラン・ガルディオス。
そして。
「はっはっはっ!待てと言われて待つのは馬鹿だぜ〜」
マルクト帝国皇帝ピオニー・ウパラ・マルクト九世陛下である。
各国の最高権力者及び上位権力者が宮殿内を走り回っているのだ。だがそれを追う人もただ者ではない。
「待たないとどういう目に遇うか、わかっていますか、貴方達!」
マルクト帝国第三師団長兼大佐、[死霊使い]ジェイド・カーティス。[皇帝の懐刀]と呼ばれる切れ者その人だったのだ。
アニスやナタリア、ピオニーは半ば愉快そうに逃走しているし、ガイに至ってはどこか顔が緩んでいる。だが、ティア、アッシュ、ルークは、ガラスで隔てられていない、ジェイドの僅かに怒りの滲んだ深紅の瞳で射抜かれ、最早必死で逃げている。そう、今のジェイドは裸眼。ようは譜眼の制御装置である眼鏡をつけていないのだ。ではそれはどこにあるかというと――…。
「こっちですよぅ〜、た・い・さ〜♪」
アニスが振りかざした手に確かにあるのは、ジェイドの眼鏡。
「早く返しなさい!アニス!」
「わわっ、パス!」
ジェイドがアニスへ手を伸ばすものの、その瞬間にポン、と眼鏡は宙を飛び、ナタリアの手に落ちる。そしてやはり変わらず続く追い掛け合い。
その原因はこのジェイドの眼鏡にあった。事の発端はつい十数分前……。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ