新帝国建立祭

□青の国のお姫さま
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  青の国のお姫さま


夕刻六時。
普通は第三師団長の執務室、と呼ばれるべき場所が今日に限ってその役割を果たしていなかった。正確には午前中は執務室だったのだが、午後から用途が変わってしまったのだ。軽快に扉がノックされる。
「しっつれいしまーす!」
入ってきたのはアニス。ぴょんこぴょんことスキップしそうな勢いで跳び跳ねて、静かに中心の椅子に座っている人物の所まで行くと、はぅあ!と驚きの声を上げた。
「どうです?私とティアの手腕を持てばお手のものですわ!」
傍で胸を張るのはナタリア。同じように傍にいるティアは困ったように、椅子に座る人物を宥めている。
「はわ〜、キレー…」
隣からアニスが眺めれば、その人物は、深くため息を吐いた。海のような青のドレスに身を包み、常に流している髪は適度に結い上げられ、唇は白い肌とは対照的な真っ赤な紅がひかれている。不機嫌そうに、しかし、確かに開かれた瞳は深紅。この世で唯一、完全な赤の瞳を持つ人。正しく絶世の美女と思われるその人は…彼の『死霊使い』ジェイド・カーティスであった。
「綺麗…はやめていただけませんか…。こんな肩幅も背丈もある男の一体どこをとればそういう発言に…」
既に不機嫌よりも諦めモードに近かった。確かに、ジェイドに女装などという趣味はない。一切、全く、ちっとも、だ。だが眼鏡まで外すという特典付きの今は正しく絶世の…(略)。
「何言ってるんですか〜、大佐ってば美人過ぎ☆もー、男にしとくのが勿体な…」
「…アニ〜ス?あまり調子に乗らない方がいいですよ…?」
「はぅあ!ホントの事じゃないですか!」
絶対零度の微笑みと声色に、アニス(一応導師)は抗議しながらもティアの後ろに隠れた。言いたい事は言いたい、けれどジェイドは恐い、という所だろう。
「ですが、羨ましいですわ。女の私達よりもずっと綺麗ですもの…」
「ナタリア、貴女まで…。そもそもこれは仕事なのです。仕方無く…」
「でも、綺麗…」
「………ティア……」
ジェイドは何を言っても聞かなさそうな女性陣達に対して、また深くため息を吐いた。だが確かにこれはジェイドの言う通り仕事…特殊任務なのだ。
事の発端は二日前。
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