新帝国建立祭

□懐刀の所以
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ぽかぽか陽気の昼下がり。珍しく朝から第三師団にお手伝いさんに来ていたルークは、師団長の執務室、ようはジェイドの執務室でまったりとお茶をしていた。
「もうすぐ一年でしょう。付き人は慣れましたか?」
ジェイドはティーカップを口元へ運びながらクッキーを頬張るルークへ尋ねた。そう、もうそろそろルークが帰還してグランコクマで暮らし始めて一年が経つ。付き人を従えていた立場から付き人として従う立場へ変わってから。悪い主ではないが大変である事は確かだろうと思い、尋ねてみる。
「どうだろ。大きなイベントはガイが行くし、俺の仕事はブウサギの世話くらいだけど」
紅茶でクッキーを流し込んでからにっこりと笑う。
「ピオニー陛下はいい人だし、ガイが色々教えてくれるから楽しいよ」
「それならいいです。環境が悪いなら陛下に申し出て苦情を言おうかと思ったのですが」
ルークの無邪気な笑顔とは違い、底意地の悪い笑顔でジェイドが言う。それに対してルークは首と手を横に振った。
「苦情なんてないよ!ホントに!毎日、楽しいんだ。ジェイドやディストのおかげでレプリカも差別されなくなったし。陛下もホントに優しい」
へへ、と笑うルークはちゃんと『進行する今』を楽しめているようで、ジェイドは安心する。ずっと気になっていたのだ。以前、ティアからルークが「『今』が一番幸せじゃないと思えればいいのに」と言っていたという事を聞いたから。ルークがレプリカである、レプリカを作った負い目と言ったらそうなのかもしれないが、とにかくルークに幸せを与えてやりたいと思っている。柄にもないとジェイドは小さく笑みながらカップを呷る。
「そういえばジェイド知ってた?」
唐突に尋ねられてジェイドは視線だけをルークへ向けた。
「ピオニー陛下ってジェイドの話する時すっげー幸せそうだって」
「!?ゴホゴホッ…」
場外ホームランで予想外の事を言われ、思わずジェイドは噎せ返る。そしてルーク自身が特にからかっているわけではなく、何もかもが無自覚な事が余計に質が悪い。
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