新帝国建立祭

□伝えたい気持ち
1ページ/9ページ

わかっていた。逃げてばかりではいけないと。
それでも言葉が出ないのです。
たった五文字。
想いを伝える言葉が。


バタンっ!と強い音で開け放たれたのはピオニーの私室の扉。そこから勢い良く飛び出したのはジェイドだった。
「おい、旦那!?」
ブウサギの散歩から帰ってきたガイがそのジェイドらしくない行動に驚き声をかけるものの、乱れた髪で表情の確認できなかったジェイドは答える事も振り向く事さえせずに走り去ってしまった。ジェイドを追うよりも確実に事情を知っているだろう中の人物へ話を聞く為に、ガイはブウサギ達を連れ私室の扉を潜った。すぐには姿が見えずいつものように寝室の扉を越える。すると備え付けられたソファーの上で膝を抱えた皇帝を発見した。
「陛下、ブウサギ達の散歩終わりましたよ」
ガイが声をかければ、ぼーっとした表情でピオニーは顔を上げた。ガイにも聞こえない程の声で何かを呟いたと思えば、ブウサギの一匹がピオニーへ飛び付いた。そのブウサギを抱き抱えて背に顔を埋めてしまう。
「…何かあったんですか?」
ブウサギ一匹ずつのブラッシングをしながらガイが呼び掛ける。だがピオニーから返事はない。黙々とブラッシングを続けているとその場には毛に櫛を通す音とブウサギの声だけが響く。最後の一匹になった時にガイはピオニーの前へ立つ。
「陛下、[ジェイド]の番ですよ」
「………嫌だ」
そこで漸く声らしい声が届いた。その様子にため息を吐くとガイはその場に座り込んだ。
「旦那と、何かあったんですね?」
返事はないが辛抱強く待っていると、更にブウサギの背に顔を埋めて、呻くような声を上げた。
「あいつを…傷つけた」
「どういう事です?」
宥めるように続きを促せばピオニーはぽつりと説明を始める。
「俺は、あいつが好きだ」
「はい」
「だから好きと伝える、愛してると言う、抱き締めたりするさ」
「そうですね」
ガイが真面目に聞いていると認め、ピオニーはブウサギから顔を上げた。
「それは恋人なら当たり前だよな?」
急に同意を求められ、ガイは腕を組み、うーんと唸る。
「そうですね…。俺は知っての通り、体質が体質でしたら経験はありませんがそういうものらしいですね」
今は良くなりつつあるが女性恐怖症という特異体質を持ち、哀れまれてきたガイだ。そうだろうな、と呟いた後ピオニーは俯いた。
「…解ってたのに。俺が解ってやらなきゃいけないのに。俺、あいつに何て事…っ」
ピオニーにしては珍しく、酷く取り乱して混乱しているようで、再びブウサギの背に顔を埋めた。
「陛下、落ち着いてください。何を言ったんです」
ピオニーの様子を見れば見る程、ガイはジェイドの様子も心配になってきた。それでもまずはピオニーだと、落ち着かせる為になるべく穏やかな声音で呼び掛ける。
「俺がどれだけ言葉にしても、あいつの口から聞く事がないから…。お前に愛されてる自信がないって…。本当に俺の事が好きかって……」
「!!」
ガイが不味いなと思うと同時に隣の部屋にあった気配が消えた。それを確認したガイは内心で頭を下げた。
<ジェイドは頼んだぜ>
「あいつが感情の表現が苦手だって俺が一番解ってた筈なのに…!」
「大丈夫ですよ、陛下。旦那なら大丈夫です。だから自分を責めないで下さい。話し合う時間はたっぷりあるでしょう?旦那を待ちましょう」
ブウサギを抱き締めて放さないピオニーから目が離せず、ガイはメイドを呼ぶと紅茶の用意を頼み、私室に留まる事にした。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ