新帝国建立祭

□太陽の猫
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――猫を拾った。
それは長期遠征演習中の私の前に突然現れた。
太陽のように光る金の毛並み、こちらを見上げる大きな目は澄んだ青。
ふと首からチェーンでかかる指輪を取り上げてみる。主張し過ぎず、存在を無くしもしないブルートパーズが嵌め込まれたシルバーリング。
もう一度猫へ目を戻すと艦長室で座っていた私の膝の上で丸くなっている。相変わらずこちらを見上げたまま。不意に笑いが零れてグローブを着けたままの指で顎の下を擽る。そうすれば気持ち良さそうに喉を鳴らす。
警戒心がないのか、膝の上から立ち上がると軽やかな動きで肩へ飛び乗り、頬を擦り寄せる。
「くすぐったいですよ」
ニャア!と一鳴きした猫は仕返しだと言っているようで顔を舐めてくる。
「こら」
ひょいと脇の下に両手を入れて肩から降ろし膝の上へ乗せてやる。
もう一度軍服の中へ仕舞っていなかった指輪と猫を見比べる。送り主と猫。

…あの人みたいだ。

人懐こくて、元気で…。
昔から私が持たないものをたくさん持っていて。
憧れや羨望の対象で…何よりも大好きな人。
「ピオニー…」
「ニャ!」
思い出して名前を呟けば体を撫でてやっていた猫が返事をした。
「…貴方の名前ではないでしょう。全く」
「にゅ〜」
咎めるようとも聞こえるなんとも言えない声で首をむに、と掴んでやれば、変な声が上がった。
思わず吹き出す程に和んでいた。
…本当は笑えるような心情にはなかった。
今年の新米兵は何かと手間のかかる気の抜けた連中が多くて苛々していた。いくら今が平和だからと言っていつ何が起こるかわからないのに。
今日とて、守りたいものはないのか、と尋ねたら、どうでしょう、などと曖昧な返事を返してきた兵を両断してやろうかと思う程には珍しく感情的になっていた。
私には守りたいものが、守りたい人がいる。何から、ではなく、どんなものからも守りたい大切な、大切な人が。だから余計に腹が立ったのかもしれない。両断はしなかったけれど、気分が悪くて艦長室へ戻ってきた。そこでこの猫にあった。

あの人に似ている猫。

それだけで心が穏やかになる。
「不思議な猫だ」
心が少し晴れた。指輪を仕舞い立ち上がると猫も飛び降りる。
さて、もう少し兵の相手をしよう。
大丈夫、この子がいる。
「おいで、ピオニー」
気恥ずかしかったけれど、そう呼べば、猫は嬉しそうに一鳴きして肩へ飛び乗ってきた。

大丈夫、頑張れる。けれど、早く帰って、『ピオニー』に会いたいと思った。

帰ったら、初めて好きだと、言葉にしよう。

そうしたら更に早く帰りたくなった。

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