短編集

□♪今宵月の見えぬボク達
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最初に言っておくけど、これは預言に支配されし者達から続くけど、番外編だからね。


"ねえアッシュ。明日の一年が明ける時にボクたちだけで祝杯をあげようか。場所はケセドニアの酒場でね。たまにはこういうのもいいかなって。別に強制はしないよ"
こんな手紙を出すなんてボクらしくもない。どうせアッシュは来ないと思ってた。けど何故かあんたは今ここにいるんだ。
「どうして急に酒を?」
「別にいいのさ。それと今夜の月齢知ってる?」
「0,00。完全な新月だろ」
「ボクたち闇に生きる外れ者には良い日でしょ?」
「ははっ。確かにな」
ボクは棄てられたレプリカでアッシュは人生を歪められた。お互いこの世界に不要と思われた存在さ。
「ザオ遺跡に魔物大量発生の事件は知ってるよね」
「ああ」
「ボクは討伐をやりに行くんだ」
「急にどうした」
「外れ者、レプリカ、棄てられた存在、道具、いいように扱われた者の最期の生き方さ」
「だから今夜俺に」
「二十歳になるまでに酒を飲めず死ぬなんて不幸だって聞いてね。こんな話しができるのなんてアッシュしかいないのさ。ボクには」
「俺はまだ子供だぞ」
「あははは。可笑しいね。別にいいんだよ。アッシュは飲まなくても。死ぬのはボク一人だから」
「いや、俺もあと二年で大人だ。酒の味も慣れたい」
「アッシュ、ありがとう。良い思い出が作れるよ」
「必ず生きて帰ってこいよ。生きて帰ってきて、また共に杯を上げよう」
生きて帰れるならね。まだ早かったかもしれない酒の苦味を感じながらボクは高級の酒"暗月"の代金を払った。
「じゃあ。行ってくる。今日はありがとう。ボクは闇夜に紛れる事にするよ」
ボクはケセドニアを南に走った。振り向く度にアッシュは手を振ってくれる。姿が見えなくなってからボクは前傾姿勢で走り続けた。出てくる盗賊も魔物全て薙ぎ倒して。ようやく着いた。ここでボクは消えるのさ。アッシュと交わした酒はボクには早かったかな?まだ口の中に苦味が広がっている。それに魔物の咆哮が聞こえる。思い出に更けるのは後だ。入り口から入ってすぐの螺旋階段にまで魔物は上がっていた。
「双撞掌底破!」
これにも使い慣れた感があるね。威力もあって使いやすい技。それでこのあとからも、
「臥龍空破!」
空中に上がってそこから下に手を伸ばして、
「いくよ、アブソリュート!」
禁譜も慣れたね。それにこの程度とは雑魚どもだね。もっと奥に進んだら以前イオンに開けさせたパッセージリングへの扉があった。懐かしいな、あの頃はまだ外殻大地の時代だっけ。ただ気を引き締めるのはここからだ。ほーら出てきた。ここの遺跡の守り手、ティランピオン。害虫か蛇か蠍か蜥蜴かはっきりしてほしいね。いや、蜥蜴はないか。
「受けてみろ!空破爆炎弾!」
炎を纏ってボクはティランピオンに突撃した。一直線に風穴を開けて、奴は呻き苦しむように倒れた。今こそ誰かが言ってた決め台詞を言おうか。
「チョロ甘だね」
そんな言葉だけ残すと今は使われていないパッセージリングまで行った。さすがにこの辺の魔物になると息が切れる。体が鈍ったか。それとも魔物側が強いのか。そんなことはどうでもいい。まずパッセージリングの側に黒色の鉛のような暗い階段なんてあったっけ。以前ティアが起動させたからこの辺りは明るい。階段の下は地核かな?まあ行ってみればいい。ちなみにここまでの道中でいた魔物は全て蹴散らしてるから。残ってるなんて勘違いはやめてほしいからね。ひとまず階段を降りて見たけど、ある程度下ったら広い空間にでれた。ボクにとっては狭い場所の方がやりやすいんだけど。こいつらは!
「エルドラント実習教室?冗談はやめてほしいね」
どうしてレプリカの兵、空を飛ぶ魔物。さすがのボクもきついかな?
「大地の咆吼よ。グランドダッシャー!」
まず地を這いつくばるレプリカを倒す!
「こいつでどうだ。グラビティ!」
これで空中にいる鳥も落ちてきた。
「覚悟!」
ちっ。反応が遅れた。
「ぐっ!」
背中を斬られるなんて初めてだけど、
「双撞掌底破!」
さっき傷を付けてきたレプリカを飛ばす。さらに追い討ちのためにすぐに距離を詰める。
「許さないよ。双破掌底撃!」
新技だよ。双撞掌底破からさらに衝撃を中に加えて体をばらばらにする。ボクならではのえげつない奥義さ。さっきの奴はともかく正直言ってこんな魔物の数なんて倒せないか。ボクは膝をついた。
「エクスプロード」
巨大な火球が魔物を薙ぎ倒した。誰かな?アッシュか。
「一人で無茶をするな」
「なんで来たのさ」
「お前一人じゃ荷が重すぎるだろ?」
「死ぬかもよ?」
「ファブレ子爵はルークだ。俺じゃない」
今からだってやり直せるだろうに。
「いくよ」
「ああ」
アッシュが来てくれて良かったと思ってる自分がいる。それに思ったより早かった。一人より二人の方が効率がいいって本当だね。
「終わりだな」
「もういないかな?」
警戒心が強いな。ボクも、アッシュも。だけどボクはこれで終わりだとは思えなかった。
「生き埋もれてしまえ!」
レプリカの一人が起き上がった。恐らく命を削ってまで出した渾身のサンダーブレードだった。
「しまった!」
「まずい!」
気づいてレプリカを潰したけど遅かった。雷の刃が天井を突き破って亀裂を生じさせる。
「おいシンク!脱出するぞ!」
「もう無理さ」
「諦めるのか?」
「ザオ遺跡はいつ壊れたっておかしくない。何かの事故って事で終わらされる。どうせ外れ者は生きていく権利はないんだ。アッシュ一人で脱出したら?」
せめてアッシュには逃げてほしかった。ナタリア王女とキムラスカを変えていく様を音素の流れから見守ろうと。
「一緒に死んでやる」
「何言ってるのさ。あんたはここから出て王女とキムラスカを変えるんだ」
「かけがえもない友を失ってまで変える国はない」
「ボクが友?」
今さら何の冗談?
「そうだ。シンクは俺の友だ。一緒にケセドニアで酒を飲み交わし、背中を預けて共に戦った一生忘れられない友さ」
「なら最期に」
ボクはパッセージリングの側に置いてあった物を二つ持ってきた。
「こんな時まで」
「飲み交わそうよ。ボクたちに合った最初で最期の最高の酒を」
「暗月、確かに俺たちの最高の酒だな」
ボクたちは崩れ落ちていく遺跡の中で暗月を飲み交わした。砂が埋まってボクたちは死んだのだろう。おいしく、苦かったあの酒を最期にアッシュはどう思って飲んでいたのだろう。けどアッシュは笑っていた。ボクもつられて笑っていたのかな?ボクは今のあんたにこの言葉を送るよ。

ありがとう

あんたはいつまでもボクの大切な戦友だね

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