新帝国建立祭

□命懸けの鬼ごっこ
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そして、ガイを追い始めたら、用があってだろうグランコクマに来ていたアニス達をも巻き込みこんな事態になっていた(ちなみにピオニーは即復活した様子)。
だからと言って、何も全員ジェイドの敵に回る事はないじゃないかという極当然の疑問は撤回される。だって集まっている最高権力者達が楽しむ気満々なのだから!
ちなみにジェイドの頭に、執務へ戻る時間だなどという事はもはや入ってはいなかった。
「このままではいけませんわ!別れましょう」
「よし!」
全員の意見が一致し、掛け声が上がると同時に七人は四散した。しかも宮殿より外へ出てから散るのだから質が悪い。全員が散った後でジェイドは足を止めて、肩を落とす。
「…全く…。取り敢えず、ガイを捕まえなくては…。後はアニスとナタリアと、陛下…ですね」
一度考え込み、いつもの癖で眼鏡を押し上げようとして叶わない事にまた大きくため息を吐く。しかしいつまでも立ち呆けている場合ではない、とジェイドは駆け出す。
「分解だけは免れなければ」
まずは最後に眼鏡を手にしていたナタリアを追う。

街の方へ駆けて行った姿を追ってきたものの、辺りを見回してもその姿はない。
それに着いた場所は少し、厄介だった。街は街でも裏通りと呼ばれる場所で、ちょっとアレな人が集まる所だ。はっきり言って、眼鏡のない状態で近付きたくなかったと言うのがジェイドの本音。ジェイドは自分自身で自覚があるわけではないのだが、かつての仲間達から『眼鏡があっても美人だけど、外せばそこらの美女をも凌ぐ』とまるでありがたくない誉め言葉をいただいている男だ。そんな彼が、こんな場所へ近づけば――…。
「そこの美人さん」
無駄にご機嫌そうな声をかけられ、ジェイドは僅かに眉を跳ねあげる。ご機嫌そうであるからというのもそうだが、ゴツい男に声をかけられて喜ぶ趣向はないのだ。
「……何か?」
今のジェイドは機嫌が悪い。言葉では言い表せない程機嫌が悪いのだ。自分を囲う数人の男達へ向ける視線も、声も冷めきっている。
「おいおい、つれないじゃねェの?」
「そうだぜぇ?仲良くしようや」
挙げ句、めげずに言い寄る男達に不快感を抱く始末。そもそもジェイドにとってはこんな者達と遊んでいる暇はないのだ。なんと言っても、眼鏡の危機!ジェイドは厭らしく笑い続ける男達へ、にっこりと微笑む。決して目は笑っていないのだが…。
「軍人に声をかけるとは、いい度胸ですねぇ」
静かに言い、カツ、とブーツの足音を響かせながら一歩近づく。
「そして、私は男ですが…?」
更に一歩。そこまでしても逃げ出さない図太い精神は天晴れなチンピラ達。
「一つ、教えておいてあげましょう…。この私、名はジェイド・カーティスと申します…」
スッと右手を前に出して、今までの笑みを消す。
「二つ名は[死霊使い]ジェイド…」
囁きのように名乗り、前方に出した手に、槍を具現化すれば。
「ぎゃーー!」
「ごめんなさいー!」
有り得ないスピードで男達は駆けていった。
「…やれやれ、軍人を口説こうなどと世の中恐ろしいですねぇ」
そう呟くにジェイドに、今しがた魔王が降臨していた貴方程恐ろしいものはないと、突っ込める人が今はいなかった。だが、一度空を斬り、槍を腕へ融合させたジェイドはその手を目元へ上げ、ふと止まる。
「…そう、だった…」
馬鹿と遊んでいる場合ではなかった、とジェイドは地面に膝をついた。しかしすぐに上を見上げると、立ち上がり、足に力を入れる。強く地面を蹴り、建物の屋根を次々と飛び上がる。
「さて、と…」
高い建物の上に乗り上がったジェイドは街を見下ろす。暫く眺めていると、ある程度離れた場所に探していた姿を見つけて、ジェイドは建物から飛び下りた。
「逃がしませんよ」
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