新帝国建立祭

□青の国のお姫さま
2ページ/11ページ

二日前…正午。参謀総長指令室にて。
「嫌です!」
珍しく、普段は声を荒げないジェイドの叫びが響く。自分の席に座っていたゼーゼマンの正面に立っていたジェイドは、怒りでも困惑でもなく、ただ複雑そうな表情でゼーゼマンを見る。
「お前さんの気持ちはわからんでもない。しかしじゃ、これは間違いなく貴族らの策略じゃ」
ゼーゼマンは長い髭を撫でながら難しい顔をしている。ジェイドも表情を変えず、ただ黙っている。
「貴族らは皇帝の地位を狙っておる。それはわかるじゃろう?そんな奴らが考案したパーティが如何なるものかわからんお前さんじゃない筈じゃ。ジェイド?」
確かにわからない筈はない。これは間違いなく、皇帝の后になりたい、もしくは娘をめとらせたい貴族の謀略の下、開かれる『后候補の集う』パーティだ。
「それで、何故私が…」
「お前さんの気持ちを汲んだつもりじゃったが…」
ゼーゼマンはジェイドが尊敬する数少ない人物の一人。そしてゼーゼマンもジェイドを実の子のように可愛がっている。実質、参謀総長という軍の者でありながら、ジェイドのピオニーへの気持ちを理解し、加担してくれている存在なのだ。
「陛下に見知らぬ者が言い寄っても構わんのか?」
「…参謀…、人が悪くなりましたね」
「…失礼な奴じゃ。それで?引き受けてくれるのかの、カーティス大佐?」
人に感情を見せないジェイドがまるで子供のように、ムッと表情を歪めた事を愉快に思いながらゼーゼマンが尋ねる。
「女性がお好きな方です。言い寄られて喜ばせておけばいいでしょう。私は外の警備にあたらせていただきます」
そう突っぱねながらも、ジェイドの心中は穏やかではなかった。ピオニーを信じている。しかしゼーゼマンの言う通り、地位にしか興味のない連中がピオニーに色目を使うのは腹立たしいし、何やら天性のものなのか不安症が発症する。
「…ふむ、確かにの。陛下も后を見初められるかもしれんな」
「…!!」
酷く不安定な関係だとは知っている。自分などいつ棄てられるか、と。ピオニーが選ぶのなら、とそれだけで納得できる程ジェイドの気持ちは安くはないのだ。それを汲んで、ゼーゼマンはパーティへ入り込んでの近辺護衛の任務を提案してくれたのだ。…けれどもその為には条件があった。それが…変装…もとい女装して侵入というものだ。さすがのジェイドにも捨てられないプライドはある。
「ならば第三師団には会場付近の警護にあたってもらおうか…の?」
意味ありげにジェイドへ向ける視線に、内心舌を打った。ぐっと軍服越しに首からかかる指輪を握り締め、ふ、と息を吐く。
「慎んで…承ります…」
公事と私事を混同したくはなかった。けれど正面のゼーゼマンはとても満足げで。きっと『ヒト』としての選択を試していたのだろうと思うと、ジェイドは二日先を考えて肩を落とした。だから、気付かなかったのだ。ゼーゼマンの意図に。貴族院に皇帝の座を狙う者は結構いる。ようはこういった華やかな席はそういった連中にとって皇帝の命を狙う絶好の機会でもある。況してや、ピオニーは幾度となくパーティが開かれても自分からは一度も女性に声をかけた事がない。つまりはジェイドが変装して潜入すれば、間違いなくピオニーはジェイドを選ぶ、とそうすれば后候補がいるという事になって貴族院も黙り、暗殺計画の機会となるこういう提案も減るのではないかという事だ。ゼーゼマンはゼーゼマンなりに仕える主君の事も、愛弟子の事も考えているのだ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ