新帝国建立祭

□春の戯れ
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そして、パダミヤ大陸。
ダアトの街の外れにできた船着き場へタルタロスを停泊させる。左舷ハッチを開き、タラップを降ろす。そこから順に降りていくと正面からやや小さな影が走ってくる。
「ピオニー陛下〜♪」
「お、アニスじゃないか。久しいな!」
走ってきた勢いを殺さず、まるでタックルするように飛び付くアニスと、それを難なく抱き止めるピオニー。軽く交わされる挨拶だが一応互いに最高指導者だ。
「導師タトリン。此度はお招きありがたく…」
そんな二人を他所に、個人的とはいえしっかりと礼儀に沿った言葉を紡ぐガイ。しかし。
「ガイってば堅苦しいのはやめ〜!」
そう言い急にアニスが飛び付くものだから、「うぎゃおえぅおわぅッ!?」などと奇怪な悲鳴をあげながら卒倒した。……哀れなり、女性恐怖症。
「はっはっはっ!全くガイラルディアは相変わらずだよな」
「ええ。公衆の面前で恥ずかしいものです」
笑い飛ばす皇帝と、しれっと切り捨てた懐刀の二人を見てから、もう一度ぴくぴくと死にかけているガイへ目をやり、ルークは内心で謝った。
<助けてやれなくてごめんな…ガイ…>
そうしているとアニスが来た道からもう一人駆けてきた。それからその現状を見るなり、すかさずガイにへばりつくアニスを引き剥がしにかかる。
「アニス!やっぱりこんな事だろうと思ったわ。もうナタリアとアッシュも来ているのだから遊んでないの」
ぶーぶー!と膨れ面をするアニスを諌め、ティアが来客達を見る。
「この度は遠い地まで足をお運びくださいましてありがとうございます」
「もう!ティアも堅苦しいのナシ〜〜!」
ティアの丁寧な挨拶に、バタバタと騒ぎながら文句を言うアニスを見て、ピオニーはやれやれと肩を竦めると、アニスの前へ立つ。何をするのかと皆が不思議に思う中、ピオニーは徐に跪いた。そして流れるような動作でアニスの手をとると、くちづけた。
「此度はこのような催し物にお招き頂き有り難く思います」
形式的な挨拶をするピオニーに、辺り一同静まり返る。少しの沈黙の後、全員が同時に覚醒した。
「はぅあ!?ピオニー陛下ってそんな丁寧な挨拶できたんですか!?」
「アニス!いくら相手が陛下だからって失礼よ!」
「ふむ、まあ腐っても皇帝ですからねぇ」
「旦那、それは禁句!でも陛下、どこかで頭でも打ったんですか!?」
「陛下が春の陽気に当てられた〜!どうしよう!?」
各々からあがる声に、さすがに跪いたままのピオニーも、口元を引きつらせた。
「……お前ら、言ってくれるじゃないか」
日頃の行いだと自覚しましょう。
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