雛見沢決戦編


□拾弍
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地下の隠し井戸では、蒼唯を山狗に捕らわれ、詩音と葛西を人質に梨花と入江の身柄の引渡しを迫られていた。
事態は絶望的で、すすり泣く魅音と沙都子、クローム。下唇を噛んで耐えているレナ、獄寺。俯く入江、山本。
そして、そわそわとしている梨花と羽入。

どうすることも出来ず、綱吉はただ悔しさを噛み締めていた。
助ける為に動かなければならない。
しかし、この場を打開する手立てが見つからないのだ。









「……………どうすればいいの、羽入…。どうすればいいのかわからない」



「………僕にもどうすればいいのかわかりませんです」



「あんた神様でしょ?何とかしてよ…、何とかしてよ!!神通力とかで敵をやっつけて、詩音や蒼唯を助けてよ!!奇跡でも起こらなきゃ救えない!なら起こしてよ、神様のあなたが起こしてよ!!!!」






ぱちん





絶望的な事態にどうすることも出来なかった誰もが、その音に驚いた。
羽入が梨花の頬を平手で打ったからだ。









「…………………………羽入…?」



「私達は共に数多の世界を渡り、人の身では知り得ないことを、いくつも知ってきました。ある時はあなたが教えられ、ある時は私が教えられ。いくつもの大切なことを学び、ようやくこの世界で最も大切なことを学び取りました。
私達が求めて止まず、そしてようやく学び得たもの。………それが何かわかりますか」









それは、奇跡の起こし方。
奇跡は人の世に起こるサイコロの目の1つ。
結果に一喜一憂する人間の身には天の気紛れとしか映らない。
奇跡は神の手にある。それを操る資格は人にはない。でも、資格はなくとも人は悟る。
如何にすればサイコロの目が良くなるか、如何にすれば、奇跡が起こるのか。









「梨花。あなたはもう知っているはずです。私よりも先に知ったはずです。………あなたが、蒼唯と共に本当に大事にしたい、この最期の世界で、知りつつ、そのやり方を試さないのですか…?」








そうだ。
奇跡の起こし方、また忘れていた。
梨花は仲間達に逃げるようにと伝える。

鷹野は自分をすぐに殺したりはしないだろう。
蒼唯のことも、すぐに殺したりはしないはずだ。今この場で出て行かなければ詩音と葛西は殺されてしまう。ならば、自分が捕まっても、殺されるまでの時間は、反撃のチャンスにもなる。
だから、自分が行く。









「考えてみたら、とっても簡単なことだったのです」









梨花はそう言いながら横穴を出て、上に上がる梯子に手をかける。









「だって、ぼくたちは絶対に勝てるって、みんな信じてるから。ぼくも蒼唯もみんなも、そして神様までも信じてるから。こんなのピンチでも何でもないのです。にぱ〜☆」



「梨花ちゃん………」









梨花の笑顔は、仲間への絶対的な信頼。
自分が殺される前に必ず助けに来てくれる。
そう信じている。

それはリング争奪戦の際に蒼唯が見せた笑みと同じだった。
ならば、その信頼に応えなければ。
綱吉は絶対に助けなければならないと覚悟を決め、その拳を握り締めていた。











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