雛見沢決戦編


□拾
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◇先攻◇
戦いを告げる先制攻撃















鷹野は古手神社に訪れていた。
富竹と連絡が取れず、もしかしていつもの待ち合わせ場所で自分を待っているのではないかと。淡い期待を胸にして。
しかし、そこに富竹の姿はなかった。

『東京』の野村と富竹暗殺の計画を打ち合わせしたばかりだというのに。
彼に何を話したかったというのか。



本当は、わかっているのかもしれない。
熱に浮かされるままに暴走し、引き返すことのできぬ段階に入って、………誰かに、何かを許してもらいたくて。

それを、彼に求めている。
彼が、自分を同情して、こうなってしまったことを、許してくれる………?








「……………はぁ…」








ずっと彼のことを考えている。
男性としての魅力なんて何もないのに、側にいるとつられて笑ってしまう。

それは疲れることだとずっと思っていたのに、今は、彼に自分を連れ回して欲しいと思う。なのに、彼はいない。



一人になると、いろんなことを考えながら思い出してしまう。
自分は彼に祖父のことを重ね、甘えているだけなのかもしれない。

いつの間にか賽銭箱の前に立っていた。
どこで道を間違えたのだろう………?
神に対して挑戦状を叩き付けた。
そうしてでも幸せになりたいと願ってる。
なのに、どうして幸せになれない。
どうして、



古手神社を後にしようとすると、入江に出会した。ひとりでいた自分を驚いたように見ていて、確かに珍しいと自分でも思ってしまう。








「珍しいですね。こんなところでどうされたのですか?」



「いいえ、ちょっとした気まぐれの散歩ですわ」








夕涼みには心地よい風が吹き抜ける。
この風に誘われて、彼もひとりで散歩に出かけてしまったのだろうか。

入江に富竹のことを聞いてみるが、知っているはずないか。








「ま、まぁ、彼もたまには羽を伸ばしたいと思うことがあるんじゃないでしょうか。
彼にもあるんですよ。ひとりになりたい時が。あなたと同じにね」



「……………………そうですわね」








言い返せなかった。
彼を縛ることなんて自分には出来ない。
彼は自分の味方にはなってくれない。
わかっていたはずなのに、胸が痛む。



境内は明日の綿流しの祭の準備に、盛り上がりを見せていた。
年に一度の雛見沢で一番の祭り、綿流し。
毎年その規模は大きくなり、ダム戦争後から本格的になった村祭りは今年にその最高潮を迎えた。村中の老若男女、また村の外から来た者達が、明日の祭りを盛大に楽しむことだろう。

そんな微笑ましい光景を、入江とともに見下ろしていた。








「明日は、楽しい祭りになるでしょうね」



「……………えぇ、楽しい祭りになりますわね」








それはとても皮肉な会話。
2人とも、別の意味で言っている。








「祭りの幕開けが、楽しみですね」



「えぇ。楽しい祭りの幕開けですわ」








入江は鷹野の表情に浮かぶわずかの形容できない歪みや苦笑、感情を読み取る。








「明日は晴れるといいですねぇ。せっかくここまで準備して、雨で中止になるなんて気の毒です」



「くすくす。ここまで大々的に準備した盛大なお祭りですもの。………雨天如きで中止になるわけありませんわ」








引き返すことは出来ない。
なら進み続けるしか他に道はない。

邪魔する者は排除する。
もう、止まるわけにはいかないんだ。








「そうですね。明日はどんな天気になろうとも、必ず祭りになりますね」



「えぇ。…盛大なお祭りになりますわよ。きっと………!!」








石は転がりはじめた。
坂の終わりに向かって。

道が間違っていたとしても、石は止まることなんて出来ない。
後戻りすることなんて出来ない。
ただただ転がり続ける。















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