罪滅しの物語


□弍拾捌
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時間があっても難題なその要求に、今すぐ応えることなど出来るはずがなかった。
しかし、人質の身を危険に晒すわけにもいかない。








【「早く蒼唯を連れてきて!」】



「ですから、どんなに急いでも………!!」








大石が言葉を言いかけた、その時だった。
風の流れが変わる。
吹き抜けた風が一瞬の静寂をもたらす。








「大石さん、あれ………」



「………っ!!!?」








部下に指を指されたその場所には、ココにいるはずのない彼女がいた。大石は思わず目を見開く。

ラフな制服姿の一人の少女。
その表情は相も変わらずいつもと同じような笑顔が浮かんでいる。








「ボクなら、ココにいるよ」








柔らかく、あたたかい声音が、はりつめていたその場に鳴った。

そこに立っていたのは、まぎれもなく天覇蒼唯。そのヒトだった。








「ただいま帰郷しました」








にっこりと笑みを浮かべる蒼唯。
このような状況でなければ、「おかえり」と答えたかもしれない。

あまりに突然、そして危機を察してやって来たような彼女に戸惑った。








「天覇さん!どうして、どうしているはずのないあなたが、ココに………!?」



「今は大石と御話をしているほど、ボクは暇ではないよ。話すべきは大石ではない」








表情は柔かだったにも関わらず、何か威厳のあるような言葉だった。
蒼唯は大石に手を差し出す。

大石は、レナとの連絡を繋いでいる受話器を渡すことを躊躇った。








【「大石さん。蒼唯………、そこにいるのかな?かな?」】



「竜宮さん………」



【「いるんでしよう?代わってよ」】








大石はレナの言葉に蒼唯に受話器を渡す。
受け取った蒼唯は大石に軽く頭を下げると小さく深呼吸をした。
そして、受話器を握りしめる。








「レナ………、久しぶり」



【「…蒼唯だ。…蒼唯の声だ。うん、本当に久しぶりだね。こないだ話した時もこうして電話だった」】


「うん。声は、いつも聞こえていたよ」








柔かな表情が真剣なものに変わった。








「今から教室に行くから。待ってて」








蒼唯の発言に周りはざわつく。
電話先のレナは楽しそうに笑っていた。








【「うん、レナも蒼唯に教室に来てもらいたいと思ってたの」】



「それなら良かった。待ってて、レナ」








蒼唯は静かに受話器を置くと、分校へ向き合った。そして、歩みを進める。

警察の人間の間を抜け、1人進む。
彼女を止めようとすることが躊躇われた。








「天覇さん!!アナタ本気ですか!?」



「こんな時に嘘なんてつかないよ。それにボクは【変える】ために来たんだ………、大丈夫。諦めないから」








蒼唯は微笑みを浮かべると、警察関係者に背を向け、分校へ向かい歩き始めた。
周りはただ、その小さな背中を見送ることしか出来なかった。















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