罪滅しの物語


□拾陸
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「貴女は忘れている」



「……………」



「思い出したくはありませんか?」








骸の言葉が蒼唯に、響き渡っていた。
彼女の蒼い瞳が閉ざされると、骸は怪しげに笑った。





その時だった。
風がドッと吹き抜けて行く。
何か異質なモノから逃げるように。

木々は、枝ごと風の力に引っ張られ、葉を擦り合わせる。
その風の勢いに、蒼唯から目を離した骸が再び蒼唯に目を向ける。



そこには、先ほどまでの蒼唯ではない。
蒼唯≠ェいた。

姿は蒼唯だった。
しかし、それは蒼唯ではない。








「くすくすくすくすくすくす」



「……………貴女は、何者ですか?」








骸の表情に先ほどの余裕な笑みはない。

彼女が蒼唯ではないと感じている。
その異質である何者かにそう尋ねた。








「くすくすくすくす。外の世界は、凡庸なモノだと思っていたけど、こんなに面白い世界だったとはね」








彼女は笑っている。

その笑みは、蒼唯とは違う、ヒトを嘲笑うような冷たい笑みだった。








「貴方が蒼唯を知るかどうかは知らないけど、今の蒼唯は貴方に構っていられるほど暇じゃないのよ」








彼女は空を見上げる。
その表情は冷たく、空を見上げているのに見下しているような表情だった。

まるで、空を見上げることが憎らしいように、冷たい視線を向けていた。








「また、はじまる。繰り返されるの。決められた運命による惨劇と過ちが。この連鎖は止まらない」








そして彼女は骸に視線を移した。
その瞳は、紅い。

魅了されてしまいそうな真紅の瞳。
目が合った瞬間に、瞳に引き込まれそうな思いになる。








「貴方が何をしようと勝手だけど、蒼唯を傷付けることは私≠ェ赦さない。
蒼唯は、余計なことを知らなくていいの、これ以上ヒトと関わる必要はない」








凍り付くような冷たい空気、
刃のような鋭い殺気。

全てが身体の自由を奪った。
瞬きすることさえ、躊躇われる。















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