罪滅しの物語
□拾参
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休み明けの学校。
休みと言っても、相変わらずリボーンの思い付きに振り回されて休んだとは言い難い休日であったのだが。
休日前振りに見る蒼唯は教室の隅にある自分の席で、空を見上げていた。
その横顔は何か思い詰めて、いつになく沈んでいるように見える。
「蒼唯ちゃん、具合でも悪いの?」
「………むぅ…?ボクは、大丈夫なのです」
京子からの声掛けに、蒼唯は小さく笑って見せるのだけど、それはなんだか無理矢理のような笑顔で。
京子もそれを感じたのだろうけど、敢えてそれを言葉にすることはなく、「ならいいんだけど…」と笑い返してみせる。
「ねぇ、蒼唯ちゃん!今度蒼唯ちゃんに紹介したい友達がいるんだけど、一緒に遊びに行かない?」
「ぇ、あぁ………、うん」
京子の誘いを曖昧に答えて、蒼唯はふらりと教室を出て行った。
後を追うことも、できたかもしれないが。
何故か蒼唯の背中が、放っておいて欲しいと言っているような気がしてしまった。
「蒼唯ちゃん…、どうしちゃったんだろ………」
「大丈夫よ…。あの子は、なんかヤバイことがあったら周りを頼る方法を思い付く。本当に困ったら、蒼唯の方から話してくるわよ」
「そう、だよね………、蒼唯ちゃんから話してくれるまで、聞かない方がいいんだよね」
京子と花のやり取りが綱吉達の耳にも届いていた。
同じように蒼唯のことを心配している人間がいることが嬉しいような、それでも、同じように力になれていないのだろうと辛くて。
綱吉は唇を噛み締める。
蒼唯が話してくれることを待っていた。
でも、蒼唯は自分の抱えるモノを語らない。
待っているだけではだめなんだ。
所詮は何も出来ないことが悔しかった。
自分自身がちっぽけな存在なんだと、無力な人間なんだと思い知らされる。
悔しさは、想いは、獄寺や山本も同じ。
「蒼唯、最近何だか辛そうだな」
「あの小さな体に、何大きなもんを抱え込んでやがんだよ」
何もしてあげられない。
ただ、見ていることしか出来ない。
それが本当に蒼唯にしてあげることのできる全てなのだろうか。
「蒼唯……………」
笑っていて欲しい。
蒼唯の笑顔を、見ていたい。
そう想っている。
そう、願っているんだ。
「俺、蒼唯のとこ行ってくる………!」
信じて待つことが自分にできることだと思った。
でも、蒼唯はいつまでも助けを求めてはくれない。
それでも、蒼唯に向かって手を差し伸べる。
差し伸べない理由にはならないのだから。
何も出来ないなら、出来ることをしたい。
傍に、いてあげたい。
「10代目、自分も行きます!」
「俺も行くのな!」
獄寺、山本も綱吉を追いかけるように教室を飛び出し、先程教室を出ていった蒼唯の姿を探す。
思い浮かぶ場所は、屋上。
既に始業のチャイムの鳴った廊下には3人分の足音が響き渡る。
ペタッ ペタッ ペタッ.....
「「「っ!!!?」」」
音がした。
その音は確かに聞こえて、一斉に振り返った。
聞き間違いではない。
確かに今、自分達以外の足音がした。
教室を出て、後ろをついてきた。
素足の小さな足音。
「な、何………!?」
「ハハハ…、誰か、いんのか………?」
聞いても答えは返って来なかった。
得体の知れないモノ。
それは恐怖で、静まり返った廊下には自分達以外の姿はないのに、確かに何か異質なモノがいる
ひとつ余計に聞こえた小さな足音。
上履きの自分達とは確実に違う素足、小さな子どものような足音だった。
聞こえるはずがない足音に、身の毛がよだつ。
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