罪滅しの物語
□拾参
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◇足音◇
聞こえるはずがない音
綿流しの夜。
ずっと、縁側で空を見上げていた。
みんなの祭りを楽しんでいる声≠ェ聞こえて、それが嬉しいようで、その輪の中に自分がいないことが、少し寂しくて。
帰ることが出来なかった。
それを後悔はしていないのだけれど、やっぱり、自分の中できちんと納得できているわけではなくて。
ボクもまだまだ子どもだなぁと思う。
部屋の方に目を向ければ、片隅には羽入が座り込んでいて。
きっとボクと同じように沈み混んでいる。
「こんなボクなんかの傍にいなくていいのです。梨花やみんなの傍にいた方が、羽入も楽しいはずなのですよ」
『あぅ…、僕は、蒼唯の隣にいたいのです………。蒼唯は、僕が傍にいるのは嫌なのですか?あぅ、あぅあぅ』
「ありがとう…、羽入」
羽入は優しい。
一時でもいい。
羽入が傍にいてくれるから、ボクはこの土地でも一人ではないと思える。
ひとりぼっちを忘れられる。
雛見沢から外に出て、はじめてのことに怖がって、手探りに道を探して。
なら、最初からやらなければ良かったのにと、心のどこかで冷めた自分が今のボクを嘲笑うのだ。
でも、こうして羽入がいてくれるから。
前に踏み出そうとする勇気をもらうことができる。
それにしても。
聞こえてくる声≠フ中に、先日逢った鷹野と一緒に回っている富竹の声もあって。
「どの【世界】でも起きてしまう、雛見沢連続怪死事件。敵が誰であろうとも、鷹野と富竹の死は必ず起きる。なら、2人は敵ではないのでしょうか?その死を避けることが出来たのなら、梨花の運命も変わるのでしょうか…?」
『あぅあぅ…』
「………ごめん。羽入に聞いても、わからないよね」
狂い出す仲間達の元を訪れては謝り続ける羽入。
富竹や鷹野に死は、仲間達の誰かが雛見沢症候群を発症させてしまう引き金となる。
事件が起きることは不安を煽り、疑心暗鬼を誘発させる。
それは足掻いてもどうすることもできない。
狂っていく仲間達の姿をボクも見ていた。
ただ見ているだけで、何もできずに。
「……………無力、なのです」
いつだって、ボクにできることはなかった。
そんな風に思い始めて、何もせずにいることに慣れてしまっていた。
そうしてボクは傍観者となってしまった。
無力な傍観者に。
何もできないのは、何もしようとしないから。
できるはずの努力をしようとしないから。
だから、ボクは無力なのだ。
…無力さを嘆いても仕方ない。
どんなに無力であっても、できることはあるはずなのだから。
諦めないことが、今のボクに力になる。
「前に鷹野がレナに、本のようなものを渡していたって言ってたよね」
『はいなのです…。この間図書館で出逢ったレナに鷹野は自分の研究成果とスクラップブックを渡していたのですよ』
あの女が書き連ねる研究成果なんて、おおよその内容は簡単に想像が出来る。
『全部全部嘘ばかりを並べた、でたらめなのですよ!』と羽入が地団駄を踏んでいて。
またあの女は『オヤシロさま』を愚弄するようなことを言ったのか。
友達を馬鹿にされることは、ボクにとっても許せないことだ。
『オヤシロさま』はそんな存在じゃない。
羽入は、そんな存在じゃないんだ。
見上げた空から聞こえる笑い声
幸せそうに笑っていても、それは不安や痛みを押し隠しているようで。
「レナ…、どうか騙されないで」
同じ空の下にいるレナに向けた想い。
レナを信じている、それでもレナを惑わす多くのモノがあることもわかっていて。
例えそれにレナが押し流されてしまっても、責めることはできない。
信じるモノを、間違って欲しくない。
大切な仲間達に、もうこれ以上傷付いて欲しくない。
これはほんの小さな些細な願い。
その願いのために、ボクはボクにできることをする。
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