罪滅しの物語
□拾弍
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ヒト前で泣くなんて、初めてだったな。
陽も落ち、すっかり夜になってしまった空を見上げながら、ボクは先程の自分を振り替える。
様々な【世界】を廻る中で、もう涙なんて渇れてしまったと思っていた。
悲しみなんて、感じなくなっていた。
だって、何度嘆いても惨劇は起きるのだから。
無情にも【世界】は壊れていくものだったから。
傍観者をやめたからって、感情的になっても仕方ないのに。
殺風景な部屋の片隅には羽入が座り込んでいて、ボクは窓辺で空を仰ぎ見ていた。
もう声≠ヘ聞こえない。
『梨花はレナの気持ちを知って、変わったのでしょうか?』
「梨花の気持ちはわからないのです。でも、仲間として互いの罪を許し合ったことは、決して無駄にはならない」
今までの世界にはないことが、【この世界】にはある。
今までの世界では起こらなかったことが、【この世界】では起きる。
…かもしれない。
そう願いたい、そう信じたい。
「みんなは明日から日常へ戻ろうとする。だけど、それは仮初めの平穏に過ぎないのだろうね」
『運命の歯車が勢いを増し、加速する。再び、惨劇がはじまりますのです』
やって来る。
綿流しの夜が。
雛見沢連続怪死事件の5年目が。
…今更ながらに、あの時鷹野に忠告の一言を声掛けなかったことが悔やまれた。
やれるべきことはしておけば良かった。
ボクは最善を尽くすための努力を惜しんでいる場合ではないのだ。
「羽入。何でもいいから、変わったことがあればすぐに教えてね」
『………蒼唯、綿流しのお祭は、本当に雛見沢に戻らないつもりなのですか?』
「だって、今雛見沢に帰ってしまったら、ボクはこの場所に戻って来れなくなるのです。レナのことを救いたくなって、見過ごせなくなってしまって…」
それは悪いことではない。
わかってる。
でも、ボクが【世界】を始める時に自分で決めたルールとは違う。
自分自身で選んだ役割でもない。
それにもしも、本当に彼等を雛見沢に招く日が来るのなら、惨劇はみせたくない。
だから、この世界の雛見沢へ招くことは出来ない。
なら、ボクは今雛見沢に帰るべきではないのだ。
これがボクの答え。
雛見沢に戻らない理由。
「さて…、英語の勉強を復習しようか」
『ふぁ、ふぁいとなのです!』
仲間達みんなに笑顔でいて欲しい。
それが、ボクの頑張る理由。
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