罪滅しの物語


□拾弍
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◇理由◇
知った時、どうしますか?















空を見上げていた。
いつもと同じように、何かを想うように。
その場から消えて、そのまま空に吸い込まれていってしまうのではないかとさえ思うほどに。

そして突然。
いきなり大粒の涙を浮かべ、蒼い瞳を悲しみに染め、泣き出した蒼唯にどうやって接していいのか。
綱吉達はわからなかった。
どんなに声を掛けても、蒼唯には聞こえていない様子で。








「ごめん、ごめんねレナ…、ぅぅう…。ごめんなさい…、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…!」








小さな声で繰り返される、謝罪の言葉。
暫く、それが続いた。

誰かに向けられた謝罪。
それは、自分達には許すことはできないもので。
蒼唯は終わりのない謝罪を繰り返した。



空の色が暗く、紫の、黄昏色に変わる頃。
ようやく落ち着いた蒼唯は瞳の周りを赤くし、泣き疲れた、呆然としていた。








「………だ、大丈夫?蒼唯、どうしたの…?」



「うん………、大丈夫、なのです………」



「で、でも…!「ごめんね…、いきなり勝手に泣き出したりしたら、誰でも驚きますのです。ボクは、みんなを驚かせてしまいました」








蒼唯は力なく笑う。
どうして泣いたのか、理由を聞かれることを避けるように笑った蒼唯に、言葉を飲み込む。

蒼唯は手早く机の上の教科書やノートを片付け、自分の鞄を手に立ち上がる。








「今日は、本当にありがとうでした。楽しかった…、あの部活のような時間が過ごせて、嬉しかった。また明日、学校で」








蒼唯はぎこちない笑みを浮かべ頭を下げると、綱吉の部屋を出ていった。
一拍遅れて後を見送ろうとしたが、玄関では無情にも蒼唯が出ていった扉の音が聞こえる。

部屋に残された者には、気まずさと遣る瀬無い思いで胸がいっぱいになる。








「………俺達、何も聞いてやれなかったな」



「うん………、何も、してあげられなかった」



「チビ蒼唯のくせに。一体何を抱え込んでやがんだか」








普段は明るい山本さえも天井を仰ぎ見て、蒼唯に声を掛けられなかったことを悔いた。
何もできないことは、こんなにも無力感を感じるものなのかと綱吉は自分の無力さを嘆く。
何かを抱えていることはわかっていても、踏み込むべきではないと思っていた獄寺は拳を握り締める。



蒼唯は、表情豊かだった。
特に笑うことが多くて、その笑顔を見ているだけで、幸せな気持ちを分け与えてもらえるようだった。
時には悲しそうな顔もしていたが、泣いた顔は初めて見た。

彼女が泣くところなど、想像もつかなかった。
泣かせたくは、なかった。
そんな姿、見たくなかった。








「……………何か、ヒトには言えないようなことを抱えているんだろ。お前達はそれ聞いた時、拒絶するんじゃなくてしっかり受け止めてやれよ」








ディーノの言葉に、綱吉達は互いに顔を見合わせる。

そんなこと。
蒼唯がどんなものを抱えていたとしても、それを拒絶しようなどとは、決して思ってはいない。
もしも、話してくれたなら。
一緒に抱えていくことだってできる。








「テメェみたいなへなちょこに言われなくても、んなことはわかってんだよ!!」



「もちろんっすよ!蒼唯はもう、俺達の仲間なんすから!」



「蒼唯には、笑っていて欲しいんです」








3人の言葉にディーノは安心したように微笑んだ。
弟分にできた仲間達は、まだまだ幼いように見えても、その実きちんとした繋がりを持っている。
本当にいいファミリーだ。

その答えを聞いていた小さな家庭教師もほくそ笑んでいた。















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