罪滅しの物語


□拾壱
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◇再会◇
逢うことを望まないヒト














勉強の気晴らしにと綱吉の家を後にして。
昼間の暑さが和らいでいるこの時間。
夕飯の買い出しや帰宅するヒトの往来があって、それは少し、雛見沢と変わらないような光景であった。

転校してきて、街の中を見回るような余裕もないまま生活を続けていた。








「そういえば…、ボクまだこの街のことよく知らない」



「お、じゃあついでに案内してやるよ!」



「っけ。迷子になったら迷惑だからな」








雛見沢の外は、未知の世界だった。
梨花にカケラを探しに行くと伝えたあの時。
雛見沢から外に出ることは、本当は凄く怖かった。

誰も知らない、何もわからない。
そんな世界に行くことが怖かった。

けど、いつまでも逃げるわけにはいかない。
雛見沢から外に出ること、この土地でカケラを探し求めること。
ボクが止まらずに歩みを進めることで、ボクは彼等に出逢えた。

雛見沢の仲間のように、笑っていて欲しいと、思える存在に。



ボクはもう逃げない。
戦うことを恐れはしない。










『その大きな期待は蒼唯を裏切り、傷付けますのですよ。蒼唯も僕と同じで、期待することに、疲れてしまったのではなかったのですか………?』



「……………確かにボクも、期待することに疲れて、全てを投げ出して。ただ見ているだけでいいと、傍観者でいることが何度もあった」








諦めてしまった【世界】もあった。
どうせ終わってしまう、狂ってしまう、壊れてしまうのだろうと最初から何もせずに、ただ見ているだけの。
楽しい時間でさえも、不貞腐れて、全部どうでもいいと思ってしまっていた【世界】があった。

それでも、気付いたんだ。
期待することをやめて、諦めてしまったら【世界】は変わるはずないって。



ボクはもう、【世界】を諦めたくない。
梨花や仲間達が悲しみ、傷付くことのない【世界】をつくりたい。








「ボクは逃げない、絶対に逃げないよ。羽入………、みんなが協力すれば、信じれば、運命だって変えられる。奇跡≠起こせるよ」








信じてしまうこと。
羽入にはそれが足りない。
否、恐れている。

信じた期待を裏切られることで、傷付き、消えてしまうのではないかと。
語らえることのできる梨花やボクが消えてしまい、暗闇の中で一人さ迷うことになるのではないかと。
そんなことはもう御免なのだと。



それに、羽入は廻る運命の中で、ヒトを信じることに疲れてしまったのだろう。








─────?…蒼唯?」



「テメェ、10代目が話しかけてんだから、反応くらいしやがれ!」



「あ………、ごめんね。ぼーっとしてたよ」








呼ばれた自分の名前に、意識は確かに目の前に戻ってくる。
視界の片隅では羽入が相変わらず、泣き出してしまいそうなほど「ぁぅぁぅぁぅ…」としている。

この廻る運命を、ボクは必ず打ち破る。
羽入、どうか諦めないで。



並盛町の街並みを案内されながら、ボクはその街並みを眺めて、そんな背後で沈み込んでいる羽入に、ボクも悲しい気持ちになってくる。
それでも、綱吉達はボクに明るく街を案内してくれていて、ボクを励まそうとしてくれているようで。

それが嬉しく、でも羽入を見ればそれは素直に受け止められるものではなかった。








「………あら?もしかして、蒼唯ちゃん?」








綱吉達とは違うその声に名前を呼ばれ。
思わず足を止めた。
綱吉達も何事かと一緒に足を止め、羽入も驚いた様子でボクの後ろを見ていた。

その声は此処では聞くはずのない、あの女の声で。



いるはずがない、いるはずがない。
そう自分に言い聞かせながら、ゆっくりと振り返る。

幻聴ではない、幻覚ではない。
あの女が、確かにそこに立っていて。
いつもの白衣や、ラフな格好ではない。
畏まったスーツ姿。








「やっぱり、蒼唯ちゃんだったのね!…いきなり転校した、引っ越したって聞いたから、私、すごく心配してたのよ」








ヒトをヒトとして見ないあの瞳が此方に向いて。
診療所でボクや梨花、沙都子を見ていたあの瞳だ。

間違いなく、ボクの嫌いなあの女だ。









「鷹野…」








何が嫌いと言う訳ではない。
明確な理由は特にはっきりとあるわけではないのだけど、今目の前に立つ女のことを、何故かボクは決して好きにはなれなくて。

気付けば梨花や沙都子と違い、彼女を避け、嫌っていた。
そんなことも目の前の女は、何も気にしていない様子で自分に笑い掛けてくるのだけど。








「久しぶり、蒼唯ちゃん」








そんな笑顔が、瞳の奥で何か別のことを考えているだろうその笑顔が、更にボクの嫌悪感を刺激して。

ボクは今、自分でもわかるくらいに冷たい表情で目の前の彼女を睨み付けていた。















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