罪滅しの物語


□拾
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このヒトは知っているだろうか?
村が起こした騒ぎの数々を。
知っていたならば、この優しい視線も畏怖嫌悪した目に変わってしまうだろうか。

そろでも、雛見沢はボクの居場所に、ボクの故郷に変わりはない。
答えを躊躇うことなんてないのだ。








「鹿骨にある…、雛見沢村なのです……………」



「まぁ、随分遠い所から来たのね!」





ポンッ





「ぇ………?」



「ダム戦争なんて言われていた時は、子ども達だってとても大変だったんでしょう?あんなに綺麗な自然を、ダムの下に沈めるなんておかしいわよね」








優しい視線は変わることなく、柔らかく微笑み掛けてくれていた。

このあたたかい手は、悟史に似ている。
でも、悟史よりも小さな手だ。
このヒトは雛見沢のことを知っていても、こんなにもあたたかな優しさをボクに向けてくれている。








「蒼唯ちゃんも、きっと頑張ったのよね。だから、今でもあの場所はあるのよ」



「ボ、ボクも、そう思うのです………!!」








やっぱり、綱吉のお母さんだ。

同じ優しさを持ってる。
親子なんだな。








「あの…、名前を、教えてほしいのです」



「私?私は奈々って言うの。沢田奈々よ!よろしくね、蒼唯ちゃん」



「よろしくです、奈々!」








ボクは母親と言うものを知らない。
雛見沢にいた最初の頃の記憶にも、母や父という存在はいない。
ただ、長い黒髪の女の姿だけを覚えている。

それが誰なのか、本当に母親なのかどうかはわからない。
それでも、ボクにも母親はいるはずだ。



奈々が出ていったあとに、なんだか綱吉のことが羨ましくなってしまった。








「奈々はいいヒトだね」



「ったりめぇだ!!10代目のお母様だぞ!!」








うん、いいヒトだ。
……………どこぞの保護者になりたがっている誰かさんとは大違いに。

奈々の差し入れてくれた飲み物とお菓子は美味しくて、苦手で後ろ向きだった英語への気持ちも晴れていくようだった。







「なんか元気が出た」



「お、じゃあ続きやっか」



「ちゃおッス」








気持ちを切り替えたところで、リボーンが窓から入って来る。

部屋の入り口が窓、と言うわけではないようで、綱吉がいつものように突っ込みを入れ、理不尽な応酬を受けていた。








「勉強は進んでるみてぇだな」



「うん、頑張ってるよ」



「せっかくだからな、英語を教えられそうな特別教師を用意してやったぞ」








特別教師?
誰?
何者?

と、リボーンが部屋の扉を開けると、さっきのランボとは違う、可愛らしい感じの男の子が大きな本を抱えて立っていた。








「はじめまして、蒼唯姉。ボク、フゥ太。勝手に蒼唯姉って呼ばせてもらってるよ」



「こ、こちらこそ、なのです…」








なんだろ、雛見沢にはいない雰囲気。

冨田、岡村なんかと比べたら、月とすっぽん。
圭一なんかとはまるで同じ性別なのかも疑わしい。
美少年、とでも言った感じである。















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