罪滅しの物語


□拾
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◇訪問◇
訪れた場所、出逢ったヒト















綱吉の部屋はまさに男の子の部屋の雰囲気で。
少し散らかっていて、漫画やゲームが置いてあって。
圭一の部屋とは違う、都会の男の部屋。
なんだか、落ち着かない。

隼人や武はよく来ているようで、机を部屋の真ん中に運んで、思い思いの場所に座っていた。
遅れて綱吉が部屋に入ってきて、教科書やのーとを広げはじめる頃には、なんだか体が固まっているような気分だった。








「んじゃ、はじめっか!」



「は、はいです!!」





『蒼唯………、緊張しすぎですのですよ。落ち着いて、深呼吸なのです!』





「み、みぃ…、ご、ごめん……………」



「何緊張してんだ」



「別にそんなに畏まらなくていいからさ。それじゃあ、はじめようか」








雛見沢では試験なんてなかったから、勉強会ってあんまりしたことない。
そもそも勉強するくらいなら遊ぼうってのが雛見沢での考えだ。

あまり苦手な英語に関しても、「そんなのできなくても十分生きていけるよ!」と言う甘い言葉に、雛見沢にいれば使うこともない知識だと思う自分の甘さに。
今まで取り組もうともしてこなかった。








「次、『sick』」



「えぇっと………、5?いや、6だ!」



「そりゃ『six』だ!!!!」








知らないよ!!
発音が似てるじゃないか。

知識はいくらあっても困るものではない。
苦手なことから逃げ続け、避けてばかりいることは巡りめぐって自分に降りかかってくる。
そんなことを今更思い知って、何故かそういうものも、【この世界】ですっぱりと清算してみようと思うのだ。








「えっと、病気の≠チて意味だっけ」



「さすがです!!10代目!!」



「あうぅ〜……………」








それにしても、わからない。
さっきから一問だって答えられてないよ。
教科書とにらめっこするボクを、部屋の隅で羽入が「ふぁいと、おーなのです!」と見守ってくれている。








「次、『doctor』」



「……………………………………医者」



「蒼唯、正解なのな!」



「こんくらいの初歩的な英単語が答えられなくてどうする!!!?ってか、テメェも答えやがれ!!」



「だってよ、答えちまったら蒼唯の勉強にならねぇじゃねぇか、なっ?」



「蒼唯………?」








……………はっ!
『医者』と言う単語から、思わず変態眼鏡のめいど好きを連想して固まってしまった。

沙都子は、大丈夫だろうか………?
そんな変態眼鏡医者に振り回されていないかどうかはもちろんだが、この時期は少し体調のことも、心配である。

見上げた空からは、今日の部活の種目を何にしようかとはしゃいでいる声がした。





コン コン





「ツッ君、入るわよ〜」








声がすると部屋の扉が開いて、入って来たのは優しそうな女のヒト。
一体誰だろ?








「獄寺くんも山本くんもいらっしゃい。ジュースとお菓子持って来たから、休憩にしてどうぞ召し上がれ」



「わざわざありがとうございます!!!!」



「どうもッス!」








どうやら、本当に優しいヒトみたいだ。
笑った顔が綱吉によく似ていて。
ボクがじっと見ているのに気付いて、そのヒトと視線がぶつかった。








「あら?その子は…?」



「最近クラスに転校して来た蒼唯だよ。蒼唯、俺の母さん」








お母さん、母…
綱吉に似ている雰囲気はそのせいか。

彼女はわざわざ膝を折って、座っているボクに視線を合わせてくれる。








「まぁ、可愛いお嬢さんね!はじめまして、ツナの母です。いつもツナがお世話になってるでしょう?」



「ぃ、いえ、そんな…………」



「転入して来たってどこから?」








言葉が、出なかった。
金縛りにあったようにボクを凍り付けた。















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