罪滅しの物語
□玖
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いつの間にか、そこにはリボーンがいた。
蒼唯の膝の上に乗ったリボーンは、違和感なくその場に馴染んでいた。
初めて逢った時もそうだったが、蒼唯はあまり驚くこともなくリボーンに挨拶をしていた。
あまつさえお弁当を一緒に食べるかと誘っていて。
綱吉としてはマフィア関係の厄介事を持ち込むリボーンを一般人の蒼唯に近付けたくはないのだが。
「お前!学校には来るなって!」
「どうだ?ツナん家で勉強すれば、明日のテストはなんとかなるだろう」
綱吉を無視して話を進めるリボーン。
蒼唯は悩んだように、首を左右に傾げている。
─────【この世界】でも、事が起きるわね。でも、彼等を知ることはあの子にとってのカケラになるかもしれない』
「え?」
綱吉は蒼唯とは違う。
蒼唯≠フ姿を見た。
周りの音が消えた。
風景さえも停止して、モノクロの世界になる。
そんな中で冷たく、ヒトを見下した冷ややかな瞳。
いつも蒼いはずの彼女の瞳が紅く見えた。
声も、いつもの柔らかい声ではない。
凍りついた刃のような凛とした声。
と、世界が動き出し、蒼唯はコロッといつものような笑みを浮かべ、先程の表情から一変させた。
「綱吉の家で勉強会か…。ボクも参加していいのなら、行かせてもらおうかな」
先程と一変した雰囲気。
そのあまりの豹変に、綱吉は背筋がぞっとした。
獄寺や山本、リボーンさえ今の豹変には気付いていない様子で蒼唯と楽し気に話をしている。
蒼唯は笑っている。
その笑みの裏側には何かがある。
でもそれは決して恐怖するものではないはずだ。
綱吉は深呼吸し、生唾を飲む。
モノクロの世界の間、自分の呼吸も止まっていたようで、気持ちが落ち着いた。
蒼唯のことを、守ってあげたい。
困っていることがあるならば、助けてあげたいんだ。
彼女を知ってあげたい。
「んじゃあ、今日の放課後ツナん家だな!俺も今日は部活休みだし」
「野球してろよ野球バカ…、不肖この獄寺隼人もお邪魔致します10代目!」
「放課後が楽しみなのです」
「あ、うん。そうだね…!」
綱吉は強く心にそう思った。
蒼唯に笑顔でいて欲しいから。
屋上をふんわりと優しい風が吹き抜けていく。
今年は早い梅雨明けで、夏のような激しい暑さがニュースになっていたが、こんなにも心地好い風があるなら、外に出るのもいいかもしれない。
綱吉は蒼唯と同じように空を見上げ、教室に戻る3人の後を追った。
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