罪滅しの物語
□陸
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外でお昼を食べるなんて、休日の部活以来じゃないだろうか。
そんな過去にあった【世界】を思い出す。
古手神社のあの見晴らしのいい高台で、皆で食べたレナお手製のお弁当。
とんでもない量のあのお弁当を、みんなでわいわいと騒ぎ、争い、笑い合ったあの一時。
また、みんなで食べることができたらいいのに。
そんなことをいつまでも考えていても仕方ない。
ボクは自分の弁当を広げる。
雛見沢を出て、園崎の伝を頼って一人暮らしの仮宿を見つけ、最低限の自炊を続けてきたが、こうして弁当を作ったのは久しぶりのことだった。
「蒼唯の弁当、うまそうなのな!」
「………何か食べる?」
「お、いいのか?」
「うん。前の学校の時も、お弁当のおかずはみんなで交換していたからね。慣れっこだよ」
梨花が妙にボクの好きなものを先に食べたことを、しっかり覚えている。
思い出すと、思わず表情が苦いものになる。
…食べ物の怨みは恐ろしいのだよ。
「んじゃ、おにぎりと手巻き、交換な♪」
「手巻きなんて凄いね」
「ウチん家寿司屋なんだ。蒼唯も今度食いに来いよ」
お寿司屋さん、かぁ…
行ったことあったっけ?
羽入の物珍しそうな様子を見る限り、行ったことがないと思う。
お刺身を店で買って食卓に並べることはあるものの、魚が海で泳いでいる様子と言うのは、どうも想像ができない。
海を見たことがないと言うのも理由なのだろうけど。
「うん…、喜んで行くね」
『ぼ、僕も行きたいのです!』
「しゅうくりーむが好きな娘も連れてくかも」
「おう、連れてこい!親父の寿司は天下一品だぜ!」
「「(なんでシュークリーム?)」」
武の笑みと羽入の「あぅあぅ♪」と機嫌の良さそうな様子を見て、ボクも笑みを浮かべた。
例え食べることができなくても、行ったことのない場所には興味があるのだろう。
そのままの雰囲気で、何か小首を傾げた様子の綱吉と隼人にも弁当箱を差し出した。
「2人も、何か食べる?」
「え!いいの?」
「うん。ボクも…、その唐揚げを頂戴するね」
綱吉の弁当からは唐揚げひとつをもらって、ボクはそこに卵焼きを入れ換える。
今日はいつもより綺麗に出来たから自慢の一品だ。
隼人の方を見ると、その手元には小袋があって、中には店で売っているおにぎりやぱんが入っている。
「隼人は、買い弁…?自炊はしないの?」
「面倒だからな。……………俺お前に一人暮らしなんて言ったか?」
「いや、勘だよ。やっぱり一人暮らしなんだね」
作ってくれる人がいないのだろうかと言う仮定からの推測であったが、どうやら当たりらしい。
男の子って、自炊しないよね。
ふと圭一の料理の無知さ加減を思い出し、つくづくそう思ってしまった。
火事になっても尚、漢の料理と言い張っている辺りが圭一の残念さだ。
「もし良ければ、今度お弁当作って来てあげるよ」
「べ、別にいらねぇよ!!」
「でも…、獄寺君、栄養偏ると体に悪いよ」
「ぐっ!?」と何かに耐えるような隼人。
昨日から見ていても、どうやら隼人は綱吉に頭が上がらない、と言うか、忠誠心が凄いと言うか。
とにもかくにも、綱吉の指摘に「10代目が仰有るなら…」と渋々な様子で「作ってきたらもらってやるよ」と納得して菓子ぱんを一つくれた。
甘いものは好きだから、嬉しい。
楽しい昼食の時間は過ぎていく。
話はボクも隼人と同じように一人暮らしをしていることに変わっていた。
「じゃあ、今日のお弁当も蒼唯の手作りなんだ」
「すげぇのな!」
「弁当作りは日頃からやっていたけど…、部活の成果で、更に料理の腕前は上達した気がするかな」
家事は梨花や沙都子と当番制にしていたけど、なんとなく弁当はボクが作ることが主になっていた。
と言って、前日の夕飯の残りなどを詰めることが多いので、大したことではなかったが。
梨花や沙都子よりも年長者として、料理に手抜きはしないように心掛けてきたつもりだ。
その成果ではないけれど、料理の絡んだ部活種目ではレナと接戦をしている自信はある。
負けられない自尊心と、絶対に勝たなければならない使命感。
部活から学んだ精神は多いかもしれない。
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