罪滅しの物語
□伍
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学校へ向かう道中。
羽入が隣を歩いていた。
自分の歩調と合わさるような羽入の足音。
聴く人が聴けばボクの足音が響いて二重のように聴こえているのだろうけど、生憎この土地に羽入の足音が聴こえるような人間はいない。
「雛見沢の様子はどう?」
『今はまだ、いつもと変わらない、日常が続いていますです。ただ、最近レナの家は大変なようなのです……………』
レナの家が?
ボクも傍観者だったからある程度のことは知っている。
レナの家は、レナが小さかった頃に両親が離婚して、今は父親と2人暮らし。
父親は離婚による心意的な傷を理由に職に就かず、母親が残していった多額の慰謝料で生活していたはずだ。
『そのお金に惹かれた『間宮リナ』という女がレナの父親を騙しているのです!!』
「えっと、結婚詐欺ってやつ?レナはそのこと、もしかして知ってるの………?」
『あ、あぅあぅあぅ………!!き、昨日、町に出た時に知ってしまったのです』
レナは正義感の強い子だ。
そんなことを知ったら、父親を、家を自分の力で守ろうとするだろう。
誰にも頼らず、一人で悩むことは決していい結果にはならない。
それに、その『間宮リナ』と言う女の名前。
何度か良くない印象で聞いたことがある覚えがあった気がする。
「なんだか、嫌な予感がする」
『あぅあぅ、僕もなのですよ!!』
レナ………
見上げた空から聴こえる声≠ヘ、いつもと同じ朝の風景に思えた。
それでも、羽入から聴いた事情から察するに、その心中は穏やかなものではないだろう。
レナはきっと誰にも頼らない。
相談もしないまま、学校では明るく振る舞うに違いないだろう。
レナが辛い時に近くにいてあげれなくて、本当にごめんね…、ごめんなさい、ごめんなさい。
「羽入………、レナのこと、何か教えてくれる?」
『………聞いたらまた、蒼唯が辛くなるだけなのですよ…?』
「それでも、何かあったらすぐに知らせて」
レナの辛さを知ってあげることしか、今のボクには出来ない。
レナの辛さを知れば、ボクは此所に来た意味を再認識することができるから。
【この世界】の惨劇を回避することよりも、【先の世界】の惨劇を食い止める方法を探すことをボクは選んだ。
その選択を後悔しないためにも、最善の努力をしなければならない。
ただ見ているだけとは違う、ボクにできること。
これがただ何もせずに見ていることと何も変わらない行為にならないように、ボクは自分で自分に科した責務を全うしてみせる。
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