罪滅しの物語


□肆
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綱吉は怯えながらも、蒼唯を庇うように前に立った。

獄寺は応戦しようとダイナマイトを構え、山本は冷や汗滴ながら、どこか楽しそうに笑っている。
蒼唯は不思議そうにその様子を見ていた。

まるで部活のような感覚。
それが常人とは異なるものであると蒼唯は知らない。
しかしながら、このようなやり取りが雛見沢以外の場所でもあるとは。
いや、雛見沢の外でこんなことが起きるのがおかしい、のかもしれない。








「此所は変わった所だね、羽入」








ポツリと呟かれたその言葉はその場にいる彼等には聞こえていなかった。



雲雀は気付いたように、暫く蒼唯を見ていた。蒼唯は雲雀に見られていることに気付いて、不思議そうに首を傾げる。








「ボクの顔に何かついてる?」



「……………君。転入手続きしたのに一度も学校に来てない天覇蒼唯だね」








蒼唯の表情が、一瞬怒ったように見えた。
綱吉は驚いたように声をあげる。








「えぇっ!?そ、そうなの!?」








見知らぬ制服や見慣れぬ蒼唯の姿に説明があり、納得がいった。



蒼唯の内心は穏やかなものではなかった。
雲雀の言うことは確かにそうなのだが、指摘されるような何か悪いことをしたわけではない。
何よりも、何の事情も知らない人間にとやかく言われたくはないと思った。

一度も学校に来なかった間。
雛見沢を離れてからのここ数週間。
好きでただ無意味に部屋に閉じ籠っていたのではない。








「それがどうかした」








蒼唯は近隣で恐れられている雲雀を目の前にしても、平然と構えている。
開き直り、そんな強がりな気持ちであった。



それが気に入らなかったのか。
雲雀は蒼唯に向けてトンファーを振るう。
しかし蒼唯はそれを、難無くふわっとした軟らかな動作でかわした。








「痛いことは嫌いだよ」



「わぉ。君、面白いね」








蒼唯はそれを嬉しそうに笑った。
その笑みに先程同様に、頬を赤く染める3人と、初めて見る雲雀も少し驚いた様子で頬を赤くした。

なんだか気が削がれた。
それに、こんなにも愛らしい笑みを浮かべられて、それに対して追撃する気にはならなかった。
構えていたトンファーは静かに下がる。







「……………仕方ないから、今日は特別に見逃す。早く帰りなよ。天覇蒼唯は、明日からしっかり学校に来ること」



「考えておくよ」








雲雀は羽織った学ランを翻し、学校内へと消えていった。

そんな背中を見送りながら、蒼唯は「来るだけなら毎日だってね」と呟き、その目を伏せながら悲しみを抱いているようだった。
そうして、切り替えたようにふんわりと笑ってみせる。








「帰ろうか」



「ぇ、あぁ…、うん」









蒼唯は、どうして悲しみを隠そうとするのだろうか。
綱吉はそんな疑問を持ちながら、まだ初対面に近い彼女にその疑問を問い掛けることはできなかった。

山本や獄寺と他愛ないことを話ながら、靴を履き替える蒼唯に、綱吉も帰路に付くべくその後を追うのだった。















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