皆殺しの物語


□弍拾玖
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◇終息◇
一時の死別















静寂がその場を支配していた。
何の音もなく、その場の全員が凍りついたように身動きすることも出来なかった。

地面に倒れている無惨な死体の数々。
その中に佇む、1人の紅い少女。
彼女がヒトの肉を裂き、血を飛び散らせ、腸を握り潰したのだ。
冷酷に残虐的に、何より無情に。






ポタッ





そんな彼女の、紅い少女の瞳から溢れ落ちたのは一筋の涙だった。








「泣いてるの………?」



「……………違うわ、私≠ヘ泣けない。蒼唯が泣いているのよ。私≠ェ、ヒトを殺めてしまったことを深く悲しみ、そして嘆いているの」








涙を拭うその手は静かに震えていた。








「私≠ヘこの子を泣かせてばかりいる。この子が笑っていてくれることが、私≠フ望みで幸せだったのに………、いつからかしらね。傷付けることしか出来なくなってしまったのは」








蒼唯≠フ表情が歪む。
それは本当の蒼唯が悲しんでいるようで、綱吉達の気持ちも締め付けられた。








「この子に他人を拒んで欲しかった。自分には私≠オかいないのだと、思っていて欲しかったの………。蒼唯を傷付けるニンゲンは嫌い。だから私≠ヘ全ての存在を否定したわ。なのに、優しい蒼唯はそれを悲しむ」








ずっと手に握られていた三日月が、地面に落ちた。紅い瞳は戸惑いに濁っている。

どうすれば良かったのだろうか。
大切なモノを守るために、他の全てを否定したのに。その大切なモノはそんな考えを望まずに否定した。



僅かに震えていた小さな体を、一番近くにいた綱吉がそっと包み込んだ。
蒼唯と同じで、だけど違うその存在である彼女のことを。








「蒼唯は誰かが傷付くことを、誰かを傷付けてしまうことを望まなかった。俺も同じだから、わかるよ。蒼唯はあなたにもヒトを傷付けて欲しくなかったんだ」



「……………それは出来ないわ。私≠ヘ蒼唯を守るために生まれた存在、あの子のために戦う存在なのだから。戦わなければ存在することも、あの子の傍にいることも出来なくなってしまう」








蒼唯≠ヘそっと、綱吉の前で手を広げて見せた。血だらけの手の平にあったのは、銀色に輝く大空のボンゴレリングだった。








「あなたは、彼≠ノよく似ている。蒼唯と共に廻る【世界】の中で、“また”こうして『大空』に廻り逢えた。それが運命だったのか、必然だったのかは私≠ノはわからない」



「あなたは、何者なんですか………?」








綱吉の問いに蒼唯≠ヘ静かに笑みを浮かべた。それはとてもぎこちない笑みながらも、冷たいものではなかった。








「私≠ヘ………、私≠諱Bそれ以外に私≠フ存在を示してくれる名前は、もうないの」








紅い瞳が静かに閉じられた。
再び開かれるその瞳は、一体何色に染まっているのだろうか?















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