皆殺しの物語


□弍拾捌
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◇終宵◇
最後の時間















全ての戦いが終わった。
これで綱吉達は、当たり前にあったみんなで笑い合える日常へ帰ることが出来る。



もう【この世界】に惨劇はない。
あったとしても、彼等なら打ち破れる。
【この世界】にボクの故郷はない。
仲間も、居場所も、何もなくなった。

ボクはひとりぼっちだ。









「大丈夫?まだ、気分悪い?」



「……………」



「蒼唯?蒼唯!?どうしたの!?」








どうして、涙が溢れるのだろうか?
ひとりぼっちだから?

違う……………
ボクも彼等と一緒に笑い合える場所に帰りたいと思っているんだ。



いつの間にか、たった2つの【世界】しか過ごしていないこの場所が、とても大切に想える居場所≠ノなっていた。

彼等と一緒にいたいと願いたい。
でもボクはここに、【この世界】に留まることは出来ない。してはならない。








「ごめんなさい、ごめんなさい………!!」



「蒼唯?」



「さようなら―――――



「「「「「「ッ!!!?」」」」」」








立ち去ろうとした。
卑怯なことにまた彼等に何も語らず【この世界】から、彼等の前から消えてしまおうと思った。

どうか笑っていてください。
その願いを残して、ボクは別れの言葉を口にした―――――



なのに。
ボクは腕を引く重みを感じて立ち去ることが出来なかった。見れば、みんながボクの腕を掴み引き留めていた。








「無断でどこへ行くつもり?」



「蒼唯、行かないで………!!」



「極限にここにいろ!いなければプンスカだぞ!!」



「蒼唯の居場所はここにあるだろ!?」



「お前はここで笑ってればいいんだよ!」



「蒼唯は俺達の仲間でしょう」








『仲間』
またそうやって呼んでくれるのですか?

ボクがあなた達の仲間?
仲間になれるの?








「ボクは何も出来ない無力な弱い存在で、ずっと見ていることしか出来なかった。【この世界】に必要ないんだよ!!」



「なに言ってんだよ!蒼唯がいたから、俺達は今まで頑張ってこれたんだ!」



「そうだぜ、必要ないはずないだろ」








ボクがいたから?
だってボクは、何もしていない。








「見守っていてくれたではないか!!」



「蒼唯は、助けてくれた………!!」








でも、ボクは。
この場所の人間じゃない。
雛見沢の人間で、それで………!!








「お前はここにいればいいんだよ!!」



「勝手にいなくなるなんて、許さないよ」








ボクは、ボクは………!!








「俺達は、蒼唯の仲間だよ。蒼唯はひとりぼっちじゃない。この場所が蒼唯の居場所だよ」










『この場所に来た時から、『新しい仲間』というカケラを、貴方は見つけた。彼等は貴女に力をかしてくれる存在―――――










『仲間』が、ヒトとの絆がカケラなの?
ボクは彼等と出逢った時、運命を打ち破るカケラに廻り逢っていたんだね。








「蒼唯は何を悲しんでるの?」



「ボクは、ボクは………!!」








受け入れてくれる仲間が、ここにいる。
でもボクは、雛見沢が消えた、大切な仲間達がいない【この世界】にひとり残るわけにはいかない。

許してください。
あなた達を選ぶことの出来ないボクを。
そしてどうか許さないでください。
何も語ろうせずにいるボクのことを。








「ツナ!!」



「沢田殿!!」








観覧席の赤外線も解除されたようだった。
あぁ、本当に誰も失わずに済んだんだな。
みんなが無事で―――――





パーンッ





「………ぇ?」








いきなり、いきなりのことだった。
その情けない発砲音が聞こえたかと思えば覆面の女が倒れたのだ。
流れ出た血が、水溜まりをつくっている。



発砲した人間は、呆気なく命を奪ってしまった人間は、少し高い所からヒトを見下していた。まるで神を気取っているかのように。

手には銃が握られ、煙が上がっていた。








「蒼唯ちゃん、みぃ〜つけた」








聞きたくない声が名前を呼ぶ。
逢いたくない、本来なら逢うことのないはずなのに。

みんなを殺し、梨花を殺し、雛見沢を殺した鷹野三四がそこに立っていた。















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