皆殺しの物語
□弍拾伍
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綱吉は学校にいた。
リング争奪戦は大空のリング、最後の戦いを迎えることになった。
みんなが戦ってきたように、今宵は自分が戦うことになる。
最後まで修行をするかと思った今日。
リボーンは修行をせずに何故か学校へ行くようにと自分を送り出した。
屋上から空を見上げて考えるのは、昨夜の戦いで傷付いた9代目のこと。
そして、涙を流し嘆いていた蒼唯の姿。
「(9代目は、あの時俺に何かを伝えようとしていた………。蒼唯はあの時、自分が9代目を傷付けたと嘆いて、それから何を悲しんでいたんだろう……………)」
空を見上げても、答えは見つからない。
夜になれば戦いが待っている。
誰かが傷付き倒れれば、大切なヒトが悲しみ傷付いてしまう。彼女のために自分には何が出来るのだろうか。
「蒼唯……………」
昨夜の戦いが終わると、彼女は空を見上げて泣いた。9代目を傷付けてしまったことだけではなく、彼女は何かを嘆いた。
その悲しみを知ってあげることも自分には出来ない。
この戦いは負けるわけにはいかない。
蒼唯をもう悲しませたくない。
でも、修行に夢中になって蒼唯の悲しみを何も知らない。わかっていない。
「(蒼唯のことを守りたいって、思ってるのに………!!)」
霧のリング争奪戦の時、骸と蒼唯の会話を理解することは出来なかった。
それでも、蒼唯が何かを抱えていることを知った。
自分達の方が、蒼唯といた時間は長いはずなのに、骸の方が蒼唯のことをよく知りわかっていた。
それが悔しかった。自分達では彼女の力になれないのかと、もどかしく思って仕方がない。
彼女の抱える苦しみから彼女を助けたい。
彼女の手を取らなければ、彼女自身を失うことになる予感がする。
また=A【世界】から彼女を失う痛みを知ることになる―――――
「綱吉………?」
声をかけられて我に返る。
振り返れば、そこには蒼唯が立っていた。
蒼唯の目の下には隈が出来、自分に対して力のない微笑みを浮かべていた。
その姿が何か痛々しく思える。
「おはよう」
「お、おはよう……………」
気まずい雰囲気が立ち込める。
蒼唯は綱吉の隣に立つと、何も言わずに空を見上げていた。
しばらく見上げていた蒼唯はそのまま呟くように綱吉に話しかけた。
「……………綱吉は、覚えてる?」
「な、何を?」
「ボクが雛見沢の話をした時に、綱吉達がみんなで行ってみたいって言ってくれたこと………、覚えてる?」
よく覚えていた。
蒼唯が並盛に転校してきて少し経った頃、この屋上で話をした。
骸との戦いがあり、リング争奪戦があり、ただ行きたいと望みを口にするだけで終わってしまっていた。
この戦いが終わったら、必ず、【あの時】交わした約束を果たしたい。
「俺、負けないから………、だから、この戦いが終わったら、みんなで雛見沢に行こう。誰一人、欠けることなく」
「…………………そう、だね。『この戦いが終わったら』、みんなで行きたいね」
蒼唯の表情が、一瞬歪んだ。
そしてまた、悲しそうに空を見上げる。
綱吉は知らなかった。
この空の下に彼女の帰る場所がないこと。
彼女の仲間が、もういないことを。
再び交わされた約束が果たされることは、【この世界】では出来ない。
しかし、もしまた廻り逢えたなら。
約束が叶えられる世界が訪れるかもしれない。
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