皆殺しの物語
□弍拾伍
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◇決意◇
戦うこと、守ること
雛見沢が、死んでしまった。
泣いたのは昨晩のあの一回だけ。泣くことさえ出来ず、ただ呆然とその事実を受け入れることしか出来なかった。
【この世界】のボクに、帰る故郷はない。
温かく迎えてくれるヒトもいない。
「ボクは、嘘をついてしまった」
―――――それは、彼等と一緒に雛見沢へ行くという話のことかしら?」
振り返れば、そこにはボクとよく似た姿の少女が立っていた。でも、彼女はボクじゃない。ボクの瞳は紅くない。
冷たくも愉しげに笑っている彼女。
「だれ………?」
「こうして向き合うことはハジメテになるのね。私≠ヘいつも貴女の傍から貴女の【世界】を見ていた。私≠ヘ貴女と同じで、貴女と全く別の存在」
いつも傍にいてくれた。
同じで違う。
ボクとよく似た存在。
それは【この世界】で聞き慣れてきた言葉だった。
「あなたは、私≠ネの?」
「クスクスクスクス。そう、私≠諱v
私≠ヘ楽しそうに笑っている。
鏡で見ていた姿と何も変わらず、そこに鏡があるように彼女の容姿はボクとよく似ていた。
それでも、彼女はボクじゃない。
彼女はボクとは違う。
同じで、違うとはそういうこと?
「そうよ、私≠ニ貴女はどこまでも同じでありながら、全てが異なっている。本当に他人のことには敏感な賢い子」
「何か、用があるの?」
私≠ヘ表情を変えた。
柔らかかった雰囲気も冷たいものとなる。
彼女の紅い瞳が、真っ正面からボクを捉えている。
「覚悟は決まったの?ヒトと戦う、他人を傷付ける覚悟は」
「……………あなたは、全てを知るとボクに言った。それは綱吉達の戦いの結末を、【この世界】の終幕を知っているという事なの?」
「私≠ヘ全てを知っているわ。でもね、それは不確定な未来なのよ。運命によって決められたものだから、それは時に大きく異なってしまう」
私≠ヘ窓際によって空を見上げた。
空を見上げても聞こえる声はない。
「例えば、前原圭一。彼は運命を変える力を持っている。最悪な【この世界】をここまでまともな世界に変えたのは、彼の力」
圭一は今はもう雛見沢に欠かせない存在になっている。繰り返される数多の【世界】の中で、圭一が雛見沢に来ないということも幾度かあった。
その度に物足りなさを感じ、彼がいてくれればと想っていた。
「運命とは時に残酷に、強固なものとして存在している。だけどね、本当は運命ほど不安定なものはないのよ」
運命が不安定?
決められたことが、変わるというの?
「ヒトこそ世で最も摩訶不思議なイキモノであり、恐ろしいイキモノよ。運命を簡単に覆してしまう力を持っているのに、その力の存在に気付いていない……………」
誰かが、同じようなことを話していた。
ぼんやりと覚えている、黒髪の女性。
彼女がそんな話をしてくれた気がする。
「運命は変えられるわ。貴女が変えることを望み、運命と向き合い戦うのならば」
「ボクは―――――
ねぇ、梨花。
ボクは運命は変えられると知ったはずなのに、『仲間』のいない【この世界】の意味を考えることができません。
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