皆殺しの物語
□拾玖
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◇相対◇
浮き沈みする感情
武が勝った。
でもスクアーロも生きてる。
2人とも【この世界】にいる。
傷付かずにいることは出来なかった。
それでも、誰も失うことなく今宵の戦いが終わったことにボクはただただ安堵する。
誰もいなくならずに済んだ。
もう、心配することは何もない。
「いなくなるわ、犠牲無しに得るものなど在りはしない―――――」
「!!!?」
どうして………、どうしていなくなるの?
雛見沢でも圭一達はお魎を説得した。
沙都子を助けることが出来る。
なのに、誰がいなくなるというの?
嫌な予感に鼓動が高鳴る。
耳元には誰かの笑い声、運命のシナリオに踊らされるボク等を嘲笑っている。
この場で誰かを失うことが決められた運命だというの?
「ざまぁねぇ!!負けやがった!!!!」
なんで笑うの?
何が、楽しいの?
大切なヒトがいなくなる痛みをボクはよく知っている。
「用済みだ」
「止めて、嫌だ!!」
誰もいなくなる必要なんてない!
【この世界】に価値のないモノなんて何一つありはしない!
スクアーロが負けたからって、敗者が消える必要なんてどこにもないんだ。
「お待ちください。今アクアリオンに入るのは危険です。規定水深に達したため、獰猛な海洋生物が放たれました」
「ちょ、待てよ。スクアーロはどうすんだ?」
「スクアーロ氏は敗者となりましたので、生命の保証はいたしません」
そ、そんなの絶対にだめだ!!
校舎に向かって走り出そうとしたボクの腕を、XANXUSが掴む。
「離して!!」
「やっぱな、そんなことだと思ったぜ」
武はスクアーロを肩に担ぐ。
XANXUSに腕を掴まれ阻まれたボクはその様子を見守ることしかできない。
助けて、くれるの………?
「普通、助けね?というか、蒼唯の悲しむ顔、これ以上見たくねぇんだ」
『武のぼろぼろの体では、彼を担いで行くのは無理なのですよ!!』
どこまでも優しい考えを持ったヒト。
誰も失うことのない未来を築こうとする武の姿に思わず泣き出しそうになる。
でもこのままじゃ、2人ともいなくなる!!
それじゃあ、意味がない!!
ボクはXANXUSを突飛ばし、出入り口を頑丈に塞がれた校舎の前に立つ。
拳を何度も打ち付けるがびくともしない。
何とかして中に……………
「羽入、すぐに開けて!!!!」
『あぅあぅあぅあぅ!無理なのですよ!!』
「君は神様でしょうッ!!!?」
無茶を言ってるのは理解している。
でも、こんな時くらい神様という存在にすがり付きたくなる。
羽入は壁をすり抜けるようにして建物の中に入り、絶対に滅多に使うことのない、神通力みたいな力で窓の鍵を開けてくれた。
いつになく羽入の姿が消えたように、うっすらとしている。
『あ、開けましたのです!!』
「ありがと」
羽入が開けた窓から校舎の中に入る。
中は水で満ちていて、激しい水音が辺りに響き渡っている。
水中には獰猛な生物と言っていたけど、鮫なんてボクはじめて見た。
2人のところまではまだ距離がある。
ボクは瓦礫の上を飛び越えて、武達の所へ向かう。
「剣士としての俺の誇りを汚すな」
「でも………よ」
「う゛お゛おぉい、うぜぇぞ!!俺はお前を殺さねぇと約束があんだ!!」
スクアーロは武を別の瓦礫へ蹴り飛ばす。
その場に一人残されたスクアーロに向かって鮫が迫った。
「剣のスジは悪くねぇ。あとはその甘さを捨てることだぁ」
「スクアーロ!!」
スクアーロの体が、暗い水の中へゆっくりと落ちていった。
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