皆殺しの物語
□拾捌
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◇雨戦◇
恵みの村雨
綱吉は1勝3敗でもう後がない。
今宵の戦いに負けることになれば、皆殺しにされてしまう。
勝って欲しい……………
けどスクアーロにも傷付いて欲しくない。
どちらかを選ぶことのできない自分が少し嫌になる。願わくばどちらも傷付かず、戦うことなどなければいいのに。
「お、蒼唯も来てくれたのな!」
「……………武」
ヴァリアー側にいるボクに武は笑みを浮かべて手を振ってくれた。
笑っている武の姿に肩の力が抜ける。
戦いがはじまる前なのにいつもと変わらず笑っている武のことが嬉しかった。
彼が戦いに巻き込まれると知った時、変わってしまうことを恐れたから。
だけど、彼は変わらない。
この戦いが終わっても、きっと変わらずに笑っていてくれる。
「蒼唯、笑ってくんね?」
「ぇ………?」
「蒼唯の笑顔見てると、元気が出るのな!だから、蒼唯が笑って傍にいてくれれば、俺絶対負けねぇ!!」
前に家光が同じようなことを言っていた。
ボクはこの場所にいるだけで、本当に彼等の力になれるのだろうか?
「武………、必ず帰って来て」
「おう!全部終わったら、雛見沢に連れてってくれな!」
武はそう言ってボクに背を向け、今宵の戦いの舞台へ向かった。
武の言葉に、ボクは頷けずにいた。
嘘をつきたくなかったから……………
「ごめん、なさい……………」
『……………どうか嘆かないでください、蒼唯―――――
「…ぇ?」
『どうしましたですか?』
「……………ううん、なんでもない」
声≠ェ、聞こえた気がした。
雛見沢の仲間の声じゃない。
空からの声じゃない。特別な声≠ェ。
「それでは雨のリング
S・スクアーロVS山本武
勝負開始!!!!」
戦いが始まった。
スクアーロの容赦ない攻撃が武を襲う。
武なら、この戦いをなんとかしてくれると信じてる。勝つだけじゃない解決法を導き出してくれると思う。
戦いの舞台に水飛沫が舞う。
「山本の奴、抜いたな」
「えっ!?」
「これが時雨蒼燕流、守式七の型
『繁吹き雨』」
目の前の戦いに思わず見とれた。
水が宙を舞う。水飛沫が煌めき、その様子がとても綺麗だった。
決して誰かを傷付けるための刃ではない。
誰かを守るために振るわれる力だ。
「あれが山本の時雨蒼燕流。まだ粗さは
あるが、この短時間でよくここまで」
『当たり前なのです!武はいつも頑張って稽古をしていましたのですよ』
……………なんで、羽入が知ってんの?
君、ボクと一緒にいたよね?
胸を張って言い切る羽入に、またいつものことかと少々呆れてしまう。
「また、『すとーきんぐ』してたんだ」
『あ、あぅあぅあぅあぅ………!!』
羽入なりに武を心配していたということなのだろう。他人を信じることをしなかった羽入にとって、これはひとつの変化かもしれない。
武は戦うことに躊躇していなかった。
なんて言えばわからないけど、彼は恐れていない。戦うことを、守ることを。
武は迷うことなく刃を手にしていた。
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