皆殺しの物語
□拾肆
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◇警告◇
それは新たな選択肢
目の前に広がったのは、少し前までずっと繰り返し見てきた雛見沢の分校の風景。
沙都子、学校に行ったんだ。
みんな沙都子の味方だよ。
沙都子はみんなに甘えていいんだからね。
みんなが、仲間が、きっと沙都子のことを助けてくれる。
だから沙都子、手を……………
恐れずに手を伸ばして。
「わぁあああん、わああああん!!」
「にぃにー、にぃにー!」
沙都子………、ごめんね。
傍にいてあげられなくて、悟史の代わりにもなれなくて、ごめんなさい。
梨花、魅音、詩音、レナ………、みんな。
ボクの代わりに沙都子の近くにいてあげてください。支えてあげてください。
圭一。
どうか沙都子のことを、ボク等の仲間を、助けてください―――――
目を開ければ知らない天井。
雛見沢ではない、並盛の居場所でもない。まったく知らない天井だ。
ここは、どこ?
「気が付いたか?」
体を起き上げると銀髪の男がいた。
ボクを許すと言った彼が。
室内を見回せば綱吉達と戦っている相手の人間達がボクに視線を向けていた。
「……………どうして、ボクとあなた達が一緒にいるのか、さっぱりわかりません」
『あぅあぅ、あぅ………!!蒼唯は、昨日の争奪戦の後に気を失ってしまい、それからランボの戦いに割って入ったことの罰で、あぅあぅ、それをあのヒトが引き取ったのです』
昨夜の記憶の欠けているボクに、傍にいた羽入がそっと説明をしてくれた。
あのヒト、とは………?
羽入が指差すのは、紅い瞳の彼。
「……………ボク、自分の部屋に帰ったりしたら」
「ダメだよ。君には昨日の争奪戦を邪魔した罰として暫くココにいて貰うんだ」
やっぱり帰れないんだ。
羽入に説明してもらって、なんとなく自分の立場を理解した。
リボーンと同じような雰囲気を感じる彼の言うように、罰ならば仕方ない。
大人しく、自分の寝ていた高床式の布団に座り込んだ。ふかふかだなぁ。
「しししっ、随分聞き分けいいじゃん」
「罰なら、仕方ないよ……………」
金髪の少年の言葉に苦笑したつもりが、頬を涙が伝い落ちていく。
雛見沢の光景が浮かび上がり、今の沙都子のことを想うと悲しくて仕方ないんだ。
この場所に来てから、ボクはよく泣くな。
「ムム、泣くほど嫌なのかい?」
「違うんだ、そうじゃない。ボクが悲しいわけじゃないんだ。泣いているのは、遠い場所で戦っている小さな仲間が泣かないから………」
『……………蒼唯』
「みんな、頑張ってる………。ボクは見ていることしかしなかった。今も、見ていることしかできない。罰だというなら、全部の爪を剥いでもいいんだ」
けじめだってちゃんとつけられる。
罰に対する償いが足りないのなら、何でもするよ。
だからお願い、沙都子を助けて。
「……………貴様は、何者だ?」
「ただの餓鬼だよ。無力な餓鬼。幾度もの惨劇に殺される、何も出来ない餓鬼だ」
雛見沢で苦しむ沙都子を救えず、圭一達の力にもなれず、梨花の運命を打ち破ることも出来ない。
何も出来ない無力な餓鬼。
「ただ信じることと見守ること、嘆くことしか出来ない」
「……………名前は?」
「ボクの名前は蒼唯、天覇蒼唯だ。仲間を傷付けることになる天覇の家の姓は嫌い。
御三家だって、巫女の家だって、今はもう何も関係ないのに………!!」
大人の都合に振り回されるの子供は、いい迷惑だ。沙都子はそんな犠牲者。
沙都子が何をしたの?
北条という姓なだけで、どうして沙都子が蔑まれなければならないの?
小さな窓から見えた空は、昨日の雨空とは違いどこまでも晴れ渡っていた。
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