皆殺しの物語


□弍
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◇世界◇
違うこと、同じヒト















目を開ければ広がる、白い天井。
殺風景な部屋は並盛にあるボクの居場所。
身体を起き上げ窓から見上げた空は、青く、白い雲が風に吹かれている。

この世界で、運命を切り開くことが出来るのだろうか?








「……………自分に出来ることをしよう」








梨花が運命に立ち向かうことを決めた。
ボクは梨花の力になりたい。何もせず、情けないこと言っているわけにはいかないんだから。








「ボクの期限は、2週間」








絶望的な世界でも、同じ答の選択肢でも、ボクは諦めない。
みんなが笑っている未来を切り開く。

その一歩を踏み出すべく、ボクは身なりを整え部屋を後にした。



学校へ向かう足取りは、正直重い。
また最初からはじめた【この世界】、この場所に、ボクを知るヒトはいない。

誰も、ボクのことを知らない。
この場所でボクは―――――








「蒼唯!」



「ぇ………?」








この場所で、ボクの名前を呼ぶヒトなんているはずないのに。
思い違い、あるいは幻聴だろうか。
自分の耳を疑うとはこう言う感覚なのだろう。

ゆっくりと振り返れば、ボクを『仲間』と呼んでくれたヒト達がそこにいた。








「おはよっす!」



「っけ、朝からアホ面してんじゃねぇよ」



「たけし…、はやと………?」







どうして、なんで。
耳を疑い、目を疑った。
だって、【この世界】は最初からはじめたはずで、誰もボクのことを覚えてるわけがないのに。

2人の真ん中で、空のような心を持つ彼もボクに笑いかけていた。








「おはよう、蒼唯」



「つなよし……………」








雛見沢とは違う、梨花達とは違う。
この場所で、いつの間にか大切だと想えるようになったヒト達がそこに立っていた。

最初からはじめたのに、ボクの名前を呼んでくれた。
思わず零れそうになった言葉を、感情を、ボクは堪えて飲み込んだ。








「蒼唯、何かあったのか?」



「泣きそうな顔してるよ!!!?」



「ぁ………、ぁ、あの………えっと、」








覚えていてくれたことが悲しかった。
忘れられていないことが嬉しかった。
素直に喜べない自分が、哀れだった。








「なんでも、ないよ」



「本当に?」



「朝怖い夢を見て、綱吉達に逢ったら安心しただけだから」








羽入は梨花と一緒にいる。
この場所で独りなんだと思っていた。
だから、本当は嬉しかった。

でも、彼等を巻き込みたくないと、関わらないと決めていた。だから、悲しいんだ。
素直に喜べないんだ。








「怖い夢か………。俺もな、蒼唯がいなくなっちまう夢見たぜ」



「なっ?!野球馬鹿も………!!」








ボクがいなくなる夢………?
それはきっと、ただの夢ではない。








「俺も、同じような夢を見た……………」








【前の世界】を、覚えているの?
それは、同じ過ちを繰り返さないために?

【前の世界】で初めて出逢っただけなのに。
そんなことがあるのだろうか。


忘れていて欲しかった。
そう願って手紙を残した。

でも、本当は覚えていてほしくて。
また名前を呼ばれたことがこんなに嬉しいなんて。








「蒼唯は、いなくならないよね?」










≪「お前は、私の傍にいるがいい」≫










今………、声が頭の中に聞こえた。
誰の声?誰の記憶?

なんなのだろう。
自分のことなのにわからない。








「蒼唯?」



「……………ボクは、ここにいるよ」








今はそう言うことしか出来なかった。



ここにいる。
ここにいたい。

それが、間違っていることでも。
彼等の笑顔を、見ていたいと思う自分がいた。















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