罪滅しの物語


□陸
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◇電話◇
いきなり鳴った電子音















授業を終えたボクは教室を離れ、屋上へと出ていた。
教室の人達は優しかった、思っていたよりも都会の人は雛見沢の人間と何も変わらないようで、安心した。

屋上の入口には鍵が掛かっていたけど、そんなもの紙留めを使って開け放ってしまう。

青い空に白い雲。
心地よい風を感じる。
街の雑踏が聞こえてきて、此所は雛見沢ではないのだと再認識する。



この場所で、
【この世界】で。

ボクに、
ボク逹に残され時間は、限りなく少ない。
廻る時間は、多くのことを知り、期待を裏切られて傷付く度に減りつつある。

それでもその時間の中で、【次の世界】に引き継げる何かを残さなければならない。








「惨劇を、止めるために……………」








これから起きる雛見沢での惨劇を止めることよりも、惨劇そのものを止めることを、ボクはその道を選んだ。

そのために。
雛見沢から外に出て、何処にあるのかもわからないカケラを求めた。



例えカケラが見付からなかったとしても、それに見合うことをしなければならない。
でなければ、全てが無駄になって仕舞う。
今抱えている雨が降り出しそうな気持ちや感情の痛みも、同じように痛んでいる梨花の気持ちも。

何より、こうして決断して前へと踏み出した自分の覚悟も、何もなかったことになって、カケラの海に消えて沈んでしまう。
次を待つ間に忘れて、またボクは傍観者になってしまう。
…そんなことはもう御免なんだ。

今も、惨劇の予兆か、レナが苦しい思いをしている。
何も行動しないわけにはいかない。





死と言う月を映す水面を掻き消すために、ボクは石を投じることにした。
この行動が梨花にとっても、自分にとっても最善の道かどうかはわからない。

それでも、互いに痛みと言う代償を払って選んだ道。
それに対する対価がただの袋小路では、あまりにも見合わない。



見上げた空が灰色に変わっていくように思えた。
袋小路だったなら…、どんな努力も、無駄なのだろうか…?








「あ、いたいた…!」



「テメェこんなとこに居やがったのか!!」








掛けられた声に、我に返る。
屋上の入口から聞こえた声に視線を向ければ、そこには綱吉逹がいた。








「良かった、教室にいないから探してたんだよ!」



「昼飯、一緒に食おうぜ!」



「ぇ…?」








わざわざ声を掛けにきた用件はなんだろうかと思っていたら、その内容は思いの外平穏なもので。
呆気に取られた。

そうか、もうそんな時間なのか。
それにしても、そんなことの為にわざわざボクを探していてくれたのか。



昨日出逢ったばかりだと言うのに、彼等は本当に面白くて、何よりも優しさに溢れている日溜まりようで。
教室にいた人間達とは違う、本当にボクのことを見てくれているような、雛見沢の仲間達と同じような気がした。








「ボクなんかが…、一緒に食べていいの………?」



「なんかって…、俺達から誘ったんだから、良いに決まってるじゃん!」



「もしかして、嫌か?」








そんなことはないと、ボクは慌てて首を横に振った。
他人に優しくされることは、雛見沢にいた時からでもあまり慣れていない。

梨花のように『オヤシロ様』の生まれ変わりとご老人連中に崇められることも、ボクはあまり好きではないのだ。
その一端には沙都子のこともあるのだが、なんだかボクには、そんな誰からでも向けられるような、無償の優しさを受ける権利がないような気がして。

そんな優しさを向けられても。
ボクには応えられるものが何もないのだから。








「あの、えっと………、ありがとう、です」








何て言ったらいいかわからなかったけど、嬉しい気持ちになったのは、彼等のおかげだから御礼を言った。
これくらいしか彼等の優しさに応えるものが、ボクにはないから。

3人は顔を赤くしたけど、風邪だろうか?
(↑主人公超鈍感)










『(違うと、思いますのです)』










いつの間にか近くにいた羽入がなんだか呆れたような表情でこちらを見ていたけど、一体何だと言うのだろう?

ボクは教室からカバンを持ってきて、彼等の昼食の輪の中に加えてもらうのだった。















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