罪滅しの物語
□参
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◇居場所◇
都会にはないもの
思わず大きなため息が溢れていた。
自分は何をしているのだろうと、自分自身に対する呆れのため息であった。
気が付けば雛見沢を離れて、もう1ヶ月程の時間が過ぎただろう。
その間に雛見沢で変わったことがあるとすれば、圭一が雛見沢にやって来たこと。
羽入がわざわざ教えに来てくれた。
前原圭一。
かつて疑心暗鬼に取り憑かれたことがあった、禁じられた掟を犯したことがあった、殺人と言う誤った手段で仲間を救おうとしたことがあった。
【世界】を廻り、【世界】を折り重ねる度に、彼は同じ過ちを避けるような行動を起こしていく。
決められていることを打ち破ろうとする考え方を持っている、意志の強い少年。
それが、ボクらの出逢った前原圭一だった。
今のボクらは圭一を見習わなければならない。
「そうでしょう…?」
その問い掛けは、誰に求めたものではなかったけど。
答えがないことに、自分は今一人なのだと再認識をする。
『並盛中学校』
下校する生徒達を横目に見て、ボクは自分がこの土地で通うことになる学校へとやって来た。
学校という場所はどこでも酷く退屈で、凡庸としている。
繰り返されることは好きじゃない。
雛見沢からわざわざ転校手続きをしたのに、今日の今日まで一度も学校には来ていなかった。
ただなんとなく時間が流れて、結局何のために雛見沢を離れたのかと再びため息が溢れる。
教師に適当な言い訳を並べて、職員室を後にする。
今更ながら雛見沢の分校とは雲泥の差、何もかもがまるで違う。
先程聞いていた教室の場所の中へ入れば、やはり分校とはまるで様子の違う教室だった。
放課後だからといって、雛見沢にあったあの部活の賑やかさはここにはなくて。
あるのは遠くの方から聞こえる人の声と、なんとなく聞こえる音だけ。
目を閉じれば蘇る雛見沢の光景。
机を丸くして、その周りにはかけがえのない仲間達の姿がある。
≪「ねぇ蒼唯、こないだの魔法テクニックのひとつ、オジサンにも教えてよ!」≫
≪「あっ、魅音汚ないぞ!!蒼唯、今日はこの俺が口先のマジックを教えてやる!」≫
≪「ダメですわよ、およしあそばせ!圭一さんに教わることなんて、きっとろくでもないこと決まっていますわ!」≫
≪「みぃー、蒼唯とトラップ談義をしようと企んでいる沙都子が言っても、説得力0なのですよ」≫
≪「梨花ちゃまの言う通りです。そんなことより、沙都子の野菜対策シリーズ考えたんですけど見てくださいよ」≫
≪「あぁ!!詩ぃちゃんズルいよぉ〜!レナも蒼唯にかぁいいお菓子作り教えて欲しいのに!」≫
「……………ひとりぼっち、か」
聞こえていた声は幻。
見えていた光景も今やまやかし。
目を開ければ現実が、誰もいない教室が目の前にある。
今年は例年にない暑さが続き、早くもセミが鳴き始めていた。
限られた期間で命を燃やすセミの姿が、自分たちの姿と重なるようで。
この季節の訪れを何度繰り返すのかと、もう何度目かになるかわからないため息を繰り返しながら、ボクは教室の後ろの窓を開け放ち、空を見上げる。
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