罪滅しの物語


□壱
1ページ/2ページ
















◇序章◇
それは事のはじまり















月明かりが妙に明るく感じた。
いつの頃から暗闇に慣れすぎてたのだろうか?
暗闇を照らす月明かりがとても眩しくて、なんだか優しく感じてしまう。

それでも。
あの紅い月夜が、頭から離れず脳裏に何度も繰り返し浮かび上がる。





幾度も繰り返される、
あの血塗られた惨劇の夜が。

ボクは、それをただ見ていた。
何度も何度も繰り返されるあの光景を。
ただ何もせずに、傍観していた。



例え違う世界であったとしても。
同じ人が、同じ景色が、同じ思い出が、同じ感情があの多くの【世界】の中にもあった。

幾つもの【世界】を廻ったというのに、あの惨劇の光景を思い返すと体の震えが止まらない。

自らの死を恐れているのではない。
この震えは、孤独を恐れているんだ。



いつから、こんなに弱くなってしまったのだろうか?








「………だめだよね」








これから新しく始めようと言うのに、情けない。
ここから新しいことに立ち向かおうと、挑んでいこうと心に決めたのに。

怖い、なんて。
寂しい、なんて。

それはもう十分に感じてきたこと。
これから先に、誰にもそんな想いをさせたくなくて、自分自身も、そんな痛みを知りたくなくて。
だから、もう決めたんだ。



空に浮かんだ白銀の月を暫く眺め、地面に置いた旅行鞄を再び手に持った。








「何処へ行くの?」








凛とした響きのある問いかけの声に、歩みはじめようとした足を止める。

ゆっくりと振り返れば、その場所には同じ時間を過ごし、同じものを眺め、感じてきた友人である彼女が立っていた。















.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ