皆殺しの物語
□玖
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◇対面◇
集う惨劇の役者達
風が、変わった。
違和感を感じてふと足を止めた。
空を見上げても嘆き声が聞こえるだけ。
なのに何故だろう。
嫌なことは起きたはずなのに、この世界の未来はもう閉ざされたはずなのに。
何かがおかしい……………
「蒼唯〜、ランボさん疲れた〜」
「あぁ、うん。早く帰ろう」
……………早くこの場所を離れなければ。
ここにいてはいけない。
早く、早く、逃げなければ!
「蒼唯姉、早いよ!」
「#*£¢!」
足音がひとつ余計に聞こえる。
いつも聞き慣れていた足音とは違う。
はっきり、こちらに向かってボクらの後を迫ってきている。
立ち止まったら………、殺られる
「みんな走って!」
咄嗟に取り出したのは、財布についている鎖。金属音が、辺りに鳴った。
黒い服の、武器を降り下ろしてきた男。
この男の狙いは一体何?
「蒼唯姉!」
「走って!逃げて!!」
黒い服の男の武器を跳ね返し、こちらから攻撃に転じようとした。
その時。
見えるはずなんてないのに。
目の前にあるはずなんてないのに
血塗られた風景が広がった。
野球バットを手に返り血を浴びた少年
―――――あれは鬼隠しの惨劇
たくさんヒトを殺して笑う少女
―――――あれは綿流しの悲劇
仲間を守るため過ちを犯した少年
―――――あれは祟殺しの暴走
首筋を掻き毟り、目を虚にする少女
―――――あれは罪滅しの狂気
腹部を裂かれ、血だらけに倒れる少女
―――――それは、
みんなみんなボクの大切なヒト。
守れなかった世界の、大切な仲間達。
今度は、守れるの?
他人を傷付けて、守れるの?
誰かを殺して、世界を守るの………?
「イラナイ人間なんて皆殺しにして仕舞えばいいのよ」
私≠ヘヒトが嫌い。
ヒトを傷付けることを何とも思わない。
ボクは、そんなことを望まない。
誰かを犠牲にして笑っていることなんて、ボクには出来ない………!!
「蒼唯姉!!!!」
相手からの攻撃を食い止めることが、今のボクに出来る精一杯だった。
本当は自分から攻撃することが怖かった。
攻撃してしまったら。
ボクはきっと、目の前にいる人間を殺して仕舞う。
「助けてぇ!!誰か助けてぇ!!!!」
助けて……………
誰でもいい。
ボクを、ボクの内にある狂気を。
止めてください。
「フゥ太!ランボ!イーピン!」
彼の声が、聞こえた気がした。
優しい、柔らかい、あたたかい、彼の声。
次第に恐怖が和らいでいった。
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