皆殺しの物語


□漆
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蝉の鳴き声が耳についた。
青い空、そして白い雲。
目を開ければ、そこは雛見沢だった。

太陽がもう高い所まで昇っている。
意識だけやって来ると、眠気に包まれてしまうことが多い……………





古手神社の境内は綿流しの祭の準備にヒトが集まっていた。

綿流しの祭も、昔はこんな大掛かりに祭になるとは思っていなかった。



また、この世界の祭も……………








『蒼唯、なのですか?』








振り返れば、羽入がいた。少し遠くに圭一や魅音、梨花達の姿が見える。








『ど、どうしましたのですか!?何かありましたのですか!?』


「……………何も。何もないから、遊びに来ただけだよ」



『蒼唯……………』



「……………ボク自身には何もないんだ。ただ綱吉達が大変な目に遭ってる。だから何も出来ない自分が嫌になった」









嘘じゃない。

でも、原因はそんなことじゃなかった。
雛見沢に帰って来たのは、みんなに元気を分けてもらいたかったから。



梨花はボクを一瞥すると、また沙都子を
からかった。何も聞かないのは、梨花の
不器用な優しさだ。








『蒼唯………、雛見沢に帰って来ていいのですよ。無理をしてあそこにいる必要はないのです』


「……………ありがとう、羽入」









でもボクには、出来なかった。

彼等を見捨てるようなその行為を。
ボクは、彼等の運命を変えてしまったかもしれないのだから……………








「羽入、見ているだけって、辛いね」



『見ているのは確かに辛いのです。でも、見ていることが辛くなる程のことを、そのヒト達はしているのですよ』



「……………そうだよね。忘れてた」









苦しいのは見ている方じゃない。ボクは、そんなこともわからなくなったのか。
情けないな……………








『蒼唯………、蒼唯も見ているだけでもいいのですよ……………
期待をしても、信じても。傷付き、裏切られますのです』



「ボクは、自分が傷付くことよりも、誰かを傷付けてしまうことが怖いんだ」






ボクにとって誰かを傷付けることは、自分自身を傷付けることと同じなんだ。

ボクは、どうすればいいんだろう。















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